うたって
杏主体のお話。
平太、歌います。
※歌詞があやふやです。すいません……。
昼の時間。
初枝も寝ていて、起きているのは平太と杏だけだった。
辰や薫、彩もぐっすり眠りに入っている。
「寝ないのか?」
と横になっている杏の隣に座って、平太が訊く。
杏は平太を見ながら答える。
「ねたいけど……ねむれないの」
「本でも読むか?」
「ううん。うた、うたってもらってるの」
と杏は首を振る。
寝るときは、初枝が歌をうたってくれるらしい。
「平太お兄ちゃん、うたって」
「え……上手くないし……」
「だいじょうぶだよ、わたししかおきてないから」
と杏は笑って言う。
それでも平太は、中々歌う気にはなれない。
「やくそく、ひとつきいてくれるんでしょ? 彩ちゃん、このまえ平太お兄ちゃんにおけしょうしたって、いってた」
「う゛」
と平太は言葉に詰まる。
あまり思い出したくない記憶だ。
「だから、わたしもおねがい。うたうたって」
「うーん……」
お化粧より断然良いが、何を歌っていいのか平太はわからない。
「どんなの歌ってもらってるんだ?」
「うんと、きらきらぼしとか、チューリップとか、いろいろ──あ。このまえは、えんかうたってた」
わからなかったけど。と杏は言う。
「えんか……」
「でも、平太お兄ちゃんのうたってるこえききたいから、なんでもいいよ」
「……じゃあ、何がいい?」
「きらきらぼし!」
「わかった」
杏は嬉しそうに平太を見る。
「ゴホン……それでは、きらきらぼし──きらきら光るー、夜空の星よ、瞬きしても──」
歌いながら杏を見ると、目を閉じて少し笑っていた。
「……下手だったか?」
「ううん。うたきけたから、うれしい」
「そっか……じゃあ次はチューリップな」
「うん!」
杏が目を閉じて、平太が歌をうたう。
三曲目の中盤で、杏の寝息が聞こえてきた。
平太は歌うのをやめて、優しくタオルをかけた。
「歌、上手かったわよ」
「梅田さん?!」
いつから聴いていたのか、初枝がムクリと起き上がって、笑って言った。
「そんな驚かなくても」
「いやいや、だって──」
聴いてるとは思わないでしょうよ。と平太は思う。
「何曲目ぐらいで寝たの?」
「えっと、三曲目の中盤です。寝息が聞こえてきたので、たぶん」
「そう。私より早いわ。きっと、それほど良かったのね」
私は五曲ぐらい歌うから──と初枝は笑って言う。
「そうなんですか」
「そうそう──そうだ、今度から平太くんに歌ってもらおうかしら」
「いやいやいやいや! 無理ですよ、梅田さんがやった方が絶対いいですよ!」
と平太は思ったより大きな声で、全力で断る。
「そんな大きな声出したら……」
「平太お兄ちゃん……?」
「ほら──」
「……すいません」
と平太は初枝に頭を下げる。
杏が起きてしまったのだ。
「歌、うたってあげたら? 私、ちょっと職員室行ってくるから」
と初枝は気を利かせて保育ルームを出ていく。
「平太お兄ちゃん、もういっかい」
「……──何がいい?」
「とんぼ!」
「わかった──トンボの眼鏡は赤色眼鏡、夕焼けお空を飛んだから、とーんだーかーらー。トンボの眼鏡は青色眼鏡……──」
その後、杏はお腹もポンポンしてもらい、いつかの願いも叶ったのだった──
サッカー部。
先輩「ゆーきやこんこん、あられやこんこん、降っても、降っても、まだ降り止まぬ──」
明良「先輩、まだ早いです」




