心の準備が……!
おもちゃ箱から。
そう……それは、雨が降っていた日のこと──
*
いつものように、平太は保育ルームに来ていた。
中には、誰もいなかった。
「……梅田さーん? 辰〜? 薫〜……彩〜……? 杏〜……?」
平太は薄暗い中、声をかけながら進む。
電気はついているが、誰もいない室内は広く感じる。
雨が静かに窓に当たり、少し不気味に平太は思った。
「……」
平太は考える。
なぜいないのか。
梅田さんは会議だとしても、子どもたちはどこへ?
そんなことを考えながら、隣の部屋や給湯室を覗く。
やっぱり、誰もいない。
「トイレか──」
平太はぽんと手を叩いて、椅子に座った。
ポツポツと雨の音が平太を包み込む。
「…………」
──カサッ……カサッ
微かに、何かの音がした。
「……」
平太は耳を澄ます。
──カサッ……カサカサカサ
さっと平太は椅子から立ち上がる。
音のした方に、ゆっくり近づいていく。
その間も、カサカサと音がしている。
その場所は、おもちゃ箱の中だった。
「…………」
いざ、おもちゃ箱に手をかけようとした時──
「平太ああああ!」
「っ?!?!!」
保育ルームのドアが開かれ、辰と薫、彩と杏が入ってきた。
「びっくりさせんなよ!!」
平太は嫌な汗が背中に伝ったのを感じた。
「なにしてんの?」
「お前らこそ何してたんだよ」
「せんせーと、かいぎいってた」
「会議?」
「平太が、まだきてなかったから──あめふってるし、かみなりおちたら、こわいから。みんなで、かいぎしついった」
「あかてんが、とか、よくわかんないはなししてた」
「そっか──」
と平太は苦笑いする。
すると彩と杏が今度は話し出す。
「おんなのせんせーが、かわいいっていってくれたの! ね、杏ちゃん」
「うん//かわいいって、いってくれた──」
と彩と杏は嬉しそうに笑った。
「よかったな。で、梅田さんは?」
「あとからくるって」
「そっか」
チラッとおもちゃ箱に目を移す。
微かにまだ音がしている。
「どうした?」
辰が平太を見上げて言う。
「あれ、おもちゃ箱に何かいるっぽい」
「ゴキブリ?」
「いや、わからん。とりあえず、梅田さんが来たら開けるから、おもちゃ箱に近づくなよ」
と四人に言う。
だが、辰はおもちゃ箱をガン見している。
「……辰?」
「あけちゃダメだよ」
と薫が言う。
すると辰はニヤッと笑うと、おもちゃ箱に駆け寄った。
「あっ、おまっ……バカ──!」
平太の声もむなしく、辰はおもちゃ箱を開けた──
「チュー」
「は?」
「ネズミー!」
辰がどくと、手のひらサイズのネズミが、おもちゃ箱から出てきた。
「かわいい」
「ちっちゃい」
「さわる!」
と三人もおもちゃ箱に近寄っていく。
「ただいま──」
と初枝が入ってくる。
「まあ、何?」
「いや、ネズミが……」
と平太が四人のいるところに目を向ける。
「あらほんと──」
初枝も四人のいるところに目をやった。
辰がネズミを持っていた。
ネズミはくねくねと体をひねり、辰の手から抜け出した。
「あ──」
ネズミはぴゅーっと走り、初枝と平太の間を抜けて、開けっ放しのドアから出て行ってしまった。
「ネズミさん……」
「いっちゃった……」
シュン……と四人は下を向く。
そんな四人を見て、初枝と平太は顔を見合わせた。
「……ほら、ネズミさんだって家族いるかもしれないだろ? 大体、おもちゃ箱にいること自体が──」
「おもちゃ箱?」
初枝が不思議な顔をする。
そして、ハッとしてからおもちゃ箱に駆け寄った。
「……やっぱり──」
おもちゃ箱をひっくり返すと、おもちゃとは別に、お菓子も出てきた。
「誰? ここにお菓子隠したの」
初枝がちょっと怒りながら訊く。
すると、辰が恐る恐る手を挙げた。
「……おれがいれた」
「また! 辰くん、前にも言ったよね? ここにお菓子入れちゃダメだって」
「あとでたべようとおもって……」
「それでもダメなの。ゴキブリ出ちゃうでしょ──!」
その時だった。音の本当の正体がわかったのは……。
──カサカサカサ……
「え?」
おもちゃ箱の入ってた場所から、ヤツは現れた──
『いやああああああああああ──』
響く、初枝と彩、杏の悲鳴。
その悲鳴は、校内全体に響き渡ったのだった……。
処理は、もちろん平太がやりました──
平太「……幽霊じゃなくてよかった──(ほっ)」
休日投稿です。




