ケンカ
ケンカ?しました。
「皆、仲良くしないと……!」
平太が保育ルームに入ると、初枝が珍しく焦っていた。
「どうしたんですか?」
「平太くん……! 皆がね、ケンカしちゃって──」
室内を見ると、辰と薫が。彩と杏が、微妙な距離を保っていた。
「何でああなったんですか?」
「なんか、薫くんが本読んでたんだけど、辰くんが遊んで欲しかったのかちょっかい出してね、いつもならそこで薫くんが一緒に読もうってなるんだけど、丁度面白い場面だったのね。夢中になってて無視しちゃって……辰くんが本取り上げちゃったの──」
と初枝は薫と辰を見やる。
薫は頬をぷっくり膨らませて、背を向けて本を読んでいる。
辰は薫に謝ろうと手を伸ばすが、薫がムスッとしているので声をかけられない。
「……なるほど。彩たちは?」
「あれは、彩ちゃんが悪いの。杏ちゃんは、いつも彩ちゃんがやりたいことをやってたんだけど、今日は杏ちゃんがやりたいことやろうって人形遊び始めたんだけどね、彩ちゃんが途中でつまんないって投げ出しちゃって──」
杏は人形を抱きしめて、体育座りをしていた。若干涙目になっている。
彩は人形を持ったまま、チラチラと杏を伺っている。
「……面白いですね──」
と平太は思わずクスリと笑う。
いつも和気あいあいとしているのに、今日は室内がどよーんとしている。
うるさい辰が、薫にどう謝ろうか四苦八苦している姿や、いつも賛成してくれていた杏に、知らないというように顔を背けられて戸惑う彩。
普段ならあまり見られない光景だろう。
「どうしましょう……」
「もうちょっと、様子見で──」
心配する初枝を置いて、平太はテーブルで課題を始めるのだった──
*
どのくらい経っただろうか。
まだ四人は、仲直りできていないようだった。
「……よくやるなぁ──」
平太は立ち上がり、まず辰の方に向かった。
「平太っ……」
辰が、うるうるした目で平太を見上げる。
平太はしゃがんで、
「本、返したか?」
と訊く。
辰はふるふると首を振る。
「ちゃんと本持ってって、謝ってこい」
「で、でも……っ、薫、おごっででっ──」
ぐしぐしと目をこする。
平太はティッシュを取ってきて、辰の鼻をかむ。
「ちゃんと仲直りしたいんだろ?」
「……う゛ん──」
「じゃあ行ってこい。許してくれるから──な、薫?」
と平太は声をかけた。
薫は急に呼ばれて少しビクッとしたあと、こっちを見ずに頷いた。
「よし。行け辰──」
ポンッと辰の背中を叩いて、送り出す。
辰は、ゆっくり薫の横に行き、本を差し出しながら言った。
「……ごめんな、薫……これ、ほん……」
「……いっしょに、よむ?」
薫が、ちょっと笑って本を受け取った。
「よ、よむ//!」
「うん──」
二人は、仲良く座って読み始めた。
「よし。……彩たちか──」
平太は仲直りしたのを見届けて、彩たちの方に行く。
「ごめんね、杏ちゃん……」
「…………」
「ごめんね……?」
「…………」
こりゃ怒ってるわ……とムスッとしている杏を見て、平太は思う。
そして、杏の隣に座って話しかける。
「謝ってるぞ?」
「……しらない」
「杏ちゃっ……」
「彩泣いちゃうぞ。この前二人で盛り上がってたじゃん」
「……彩ちゃんがいけないんだよ……! だいじなウサギさんなげたからっ──!」
どうやら、杏はお気に入りのウサギのぬいぐるみを投げたことに怒っているらしい。
「彩、それは悪いぞ。ウサギに謝れ」
「ゆるしてくれる……っ?」
彩が杏を見る。
杏は一瞬頷きかけて、プイッと顔をそらした。
「あ……」
「杏ちゃっ……ごめっねっ、ウサギさんっ、ごめんなさいぃっ──」
ひっく、と彩は泣き始めてしまった。
平太が彩を撫でようとした時、杏がスッと彩の頭を撫でた。
「……だいじょうぶ、だよ。ウサギさんも、いいよっていってる」
「杏ちゃっ……──ごめんねっ、ごめんねっ」
「だいじょうぶ。彩ちゃんなかないで……っ」
なぜか杏も泣きそうになっている。
「はいはい。泣くな泣くな。許してもらえただろ」
「うんっ……」
「杏も泣きそうになってんなよ」
「うん──」
二人はごしごしと目をこすってから、笑いあった。
辰と薫も、今ではもう楽しげに本を見合っている。
「あら……? 仲直りしたの?」
と初枝が部屋を覗いて驚く。
すると、四人はニコッと笑って、
『うん──!』
と頷いた。
初枝は、そう。と安心したように微笑んだ。
そして、平太に小さくお礼を言うのだった──
休日投稿です。




