彩と杏
今回は、彩と杏がメインです。明良もちょっと出ます。
いつもの保育ルーム。
平太と辰、薫は、三人で本を読んでいた。
初枝は、会議のため不在。
彩と杏は、隣の部屋でコソコソ話をしていた。
「なんであっちじゃダメなの?」
彩と向かいあって座る杏が訊く。
「あっちには、だんしがいるでしょ! だから、こっちなの」
「いつもあっちなのに?」
「かんけいないよ! きょうはこっちなの!」
と彩がブウと頬を膨らませる。
杏は、ごめんね、わかったから。と彩をなだめる。
「なんできょうは、こっちなのかっていうとね」
「うん」
「コイバナ、しようとおもって」
「コイバナ?」
「そう。すきなひとのはなしするの」
と彩は手を組んで、夢見る乙女を演じる。
「すきなひとの、はなし?」
「そう。あたしは、平太お兄ちゃん」
「わたしも……!」
二人はニコッと笑いあって、話し始める。
「平太お兄ちゃんは、やさしい」
「うん! このまえ、せなかなでてくれたね」
「おっきなてで、あったかかった」
「うん──」
そのぬくもりを思い出すように、二人は目を閉じる。
包み込まれるようなあの感じ。背中から伝わるぬくもりは、安心感があった。
「……でも、せんせーのほうがおちついたね」
「だってせんせーだもん」
「そっか──」
と頷く。そして、思い出したように杏は訊く。
「明良お兄ちゃんは?」
「明良お兄ちゃんは、平太お兄ちゃんとはちがうかっこよさがあるよね!」
と彩は立ち上がる。
「ほら、サッカーやってる──」
窓際に寄って、二人は校庭をみる。
明良とサッカー部員が、ボールを追って走っていた。
「すごいね」
「うん。かっこいい──」
*
「……ん? おい、何か子どもがこっち見てないか?」
校庭でサッカーをしていた部員の一人が、彩と杏に気づいた。
「保育ルームから誰か見てるぞ」
「ホントだ──」
明良も保育ルームに顔を向けた。
「彩ちゃんと杏ちゃんか……?」
すると、彩と杏が手を振り始めた。
「お! 手振ってんぞ!」
「俺たちに振ってんすかね?」
「違うだろ。伊川に手振ってんだよ」
明良は、え? と思いつつ、彩たちをもう一度見る。
まだ手を振っていた。
「伊川、手振ってやれよ。待ってんだろ」
「そうだそうだ!」
「わかりました……」
明良は先輩に言われ、恐る恐る手を振った。
すると、彩たちの手の振りが一層大きくなった。
「お。やっぱり伊川だったか」
「人気者め。ボール片しとけよ──」
「え?! ちょっと先輩!」
明良は最後に大きく手を振って、戻っていく先輩たちの後を追った。
追いながら、手振ってくれたなぁと、少し嬉しくなる明良だった。
*
「いっちゃった」
「でも、て、ふってくれたよ」
「そうだね。ユニフォームすがた、かっこいいね!」
と彩が目をキラキラさせる。
杏も頷いて、目をキラキラさせる。
「きっと、平太お兄ちゃんもユニフォームきたら、かっこいいんだろうね!」
「そうだね! でも、いまのままでも、じゅうぶんかっこいいよね──」
二人はうんうん頷く。
「いちにち平太お兄ちゃんといっしょにいられたら、杏ちゃんはなにしたい?」
「そうだな……おにんぎょうあそびしたい。それで、それがおわったら、たかいたかいしてもらって、ほんもよんでもらいたい!」
「いいね! あたしは、杏ちゃんがしたいことぜんぶやってもらって、いっしょにおひるねしたい。おなかポンポンしてもらいながら、せんせーがやってくれるように、うたうたってもらう!」
「いいね! 平太お兄ちゃんのうたききたいね!」
「だよねだよね!」
彩と杏はキャッキャと手を取り合う。
「……何してんだ?」
平太が部屋を覗いて、ピョンピョン跳ねている二人に訊く。
「なにもないよ! ね、杏ちゃん」
「うん。なにもない──」
と二人は笑いあう。
平太はよくわからなかったが、とりあえず女の子同士だと、何か盛り上がることがあるんだなと思った。
そしてその日家に帰ってから、明良からメールが届き、手振ってくれたんだけど……何でかな? という文面を見て、いや知らんよ?! と平太がなったことは、彩たちは知らない──
彩と杏があまり出てなかったので。
休日投稿です。




