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第17話 中級試験:≪魔の森のテイム試験≫

 その後、中級試験当日までの時間は、地道な自己強化に励んだ。


 具体的には、集めた素材と購入した≪巨大肉≫や≪香草≫などを使って、≪魔物寄せの香草肉≫をいくつか作り、それを≪満腹の罠:魔物寄せの香草肉≫に錬金していった。


 その後、魔術の開発を試そうと思ったが、面白い魔術を作ろうと思うと持ってない魔法材料や≪式≫がどうしても必要になるという壁にぶつかり、悪戦苦闘していた。


 なんとか持っている材料と≪式≫の範囲で新しく作れた魔術が――


==========

 ≪式≫:≪「肉体」を「【生命錬金】」で「異常」から「正常」に変える≫


 ≪媒介≫:≪「肉体」≫


 ≪代償≫:「薬草」


 ≪魔術意図≫:「肉体の傷や病、状態異常などを生命錬金術で正常に変える魔術」

==========


 という式によって出来た魔術――【生命錬金:肉体正常化】だ。


==========

 レアスキル【生命錬金:肉体正常化】

 代償:薬草


 使用した薬草の効能に合わせて、肉体の傷や病、状態異常などを生命錬金術で正常化する。

==========


 これにより、俺は錬金術師でありながら、薬草を消費してヒーラーとしての役割も持てることになる。


 キンググリフォン戦では【王威咆哮】の【恐慌】状態だけでパーティが半壊した。それも、【恐慌】を直せる薬草さえあれば、もう怖くはないのだ。


 おそらく、別行動のツキトや火咲も引き続き自己強化や素材集め、≪式≫集めに励んでいることだろう。


 たぶん、俺たちはプレイヤー2000万人のなかでもかなりスタートダッシュを切っている方だと思う。


 中級試験は、成果が期待できそうだ。


 そんなことを考えながら色々と活動しているうちに、俺たちは中級試験の当日を迎えていた。





 *****





 中級試験の会場は第11層≪魔の森≫であり、試験日には第1層≪学園都市ガーデン≫から直通のワープポータルが用意されるそうだ。


 俺たちがそのワープポータルの設置がアナウンスされた魔術大学の第2キャンパスに辿り着くと――

 

 ――ものすごい人数のプレイヤーが、集まっていた。


 並んでいる。


 ものすごく並んでいる。


 ワープポータルは人数一杯に載せれば100人くらいは載ると思うのだが、にもかかわらず凄まじい長蛇の列が出来ている。


「いやーすごいね! これが初日プレイヤー数2000万人のゲームかぁ……」


 火咲もさすがにここまで大規模に人数の多いゲームは初めてのようで、興奮した様子でその光景を眺めている。


「人数制限とかないよな?」


「ないない! 中級試験は誰でも受けれて、人数制限もなし! ≪魔の森≫はめちゃくちゃ広いからねー」


「これ、何人が受かるんだい?」


「βだと、中級試験の合格基準は決まってたね。テイムしたモンスターの点数が上位1割に入る。それがシンプルな中級試験の合格方法だよ」


「1割か、結構厳しいな。それにしても、みんな3人チームをちゃんと組んできてるのか?」


「そうじゃない人はランダムマッチングで参加だね。もっとも、そんな野良チームでクリアできるほど甘いゲームじゃないけどね」


 俺たちは順当に3人チームで参加申請を済ませ、やがてワープポータルの番が来た。


 そうして訪れた魔の森は――


 巨大な、巨大すぎる木々が支配する、薄暗いおどろおどろしい森だった――


==========

 <第11層≪魔の森≫>


 深き昏き森には、数多くの魔物が棲まう。

 樹冠を渡る翼、地を這う鱗、夜闇に光る無数の眼。

 踏み入る者は、彼らの獲物を探す目に己もまた映ると知るがいい。

 時には勇気を奮い立たせ挑むことが、新たな友を見出すことに繋がるやも――

==========


 辿り着いた森の中の広場には、物凄い数のプレイヤーたちが集合していた。人数から見るに、どうやら全員が同じ場所からスタートではないようだが、それでも意味が分からないくらいの人数だ。


 見ると、プレイヤーたちは本当に多種多様で、多くの外国人と思しきプレイヤーがオーバーリアクションで楽しそうに喋っている。

 中にはテイムしたモンスターを連れているのか、大きな蜥蜴に跨っている奴、肩にカラスを乗せている奴、空を泳ぐ大きな魚を釣れている奴などがいて、本当に面白い光景が広がっていた。


 これが――アリスルール・オンライン。


 その広すぎる世界の一端を感じる光景に、知らず知らずのうちに胸が高まる。


 広場の向こうには、見たこともないほど太く高い木々が並んでいた。


 幹の周囲を何人で囲めば一周できるだろうか。その根元には人が入れそうな洞があり、頭上の枝葉は重なり合って、森の奥を薄暗くしている。


 これが、第11層≪魔の森≫。


 今は受験者として入れてもらっているだけだが、合格すれば第30層まで行動範囲が広がるらしい。


 ミナエルの待つ、第200層までは、遥か遠い。


 だが、俺はそれを目指すと決めた。


 まずは、この試験を最速で勝ちあがる。


「こっち! わたしたちは東部第86区画だって!」


 火咲に呼ばれ、案内表示に従って歩く。


 受験者たちは次々に別の道へ振り分けられていた。どうやら、同じ森のあちこちで試験を行うらしい。


 俺たちが案内された場所には、すでに何組ものパーティが集まっている。


「おー、みんな強そうだねっ!」


「嬉しそうだな」


「そりゃそうだよ! 強いプレイヤーに勝つのが、一番気持ちいいんだから!」


 火咲は実に分かりやすいバトルジャンキーだった。


 今の内に、俺も持ち物を確認する。


 風王剣。作り足した罠。餌にする料理。採集した薬草たち。


 今回は、俺の錬金術師らしいところを、真の錬金術師たる所以を、しっかり見せつけてやろうじゃないか。


「それでは、規則を確認してください」


 試験官らしいローブ姿の女性が告げると、視界に表示が現れた。


==========

 <中級試験:≪魔の森のテイム試験≫>


 3人一組で、魔物をテイムせよ!

 制限時間:90分

 この区画の100組中、得点上位10組が合格!


 同じ種類の魔物は何体捕まえても1体分としかカウントされない。

 終了時に生存し、契約が継続している魔物を採点する。

 魔物を殺した場合、その配点分を減点する。

 持ち込んだテイムモンスターは採点対象外。


 本試験中、テイムモンスターの同時召喚数は3体となる。

==========


「殺すと減点、か」


「そう! 剣の扱いには気を付けて!」


 俺は思わず、腰の風王剣を見下ろした。


 せっかく手に入れた格好いい剣なのに、この試験では使いどころが難しいようである。


「ツキトの魔術は絶対使えないな」


「ふふっ、あれをここで使ったら、何点引かれるんだろうね?」


 ツキトは笑いながら、試験の配点表を開いた。


 俺も同じものを見てみる。


 森狼が10点、鎧猪が30点。ほかにも、知らない魔物の名前がずらずらと並んでいる。


 そして、ベビードラゴンは150点だった。


「やっぱりベビードラゴンの点数はβ通り高いねっ!」


「狼換算で15種類分か。そりゃ、上位はみんな捕まえてたとか言われるわけだ」


「まあ、まずは、僕たちの戦術がどれくらい使えるか、手ごろな魔物で試してみよう」


 ツキトの提案に、俺も頷いた。


 やがて、試験官が合図した。


「それでは――開始!」


 受験者たちは、一斉に動き出した。





 *****





「いた。あの倒木の向こうに、二頭」


 ツキトの示した先で、灰色の獣が動いていた。


 狼だ。


 ただし、普通の狼よりも一回り以上大きい。


「≪森狼≫だね。鼻も耳もいいから、すぐ逃げるよ」


「……それ、どうやって近づくんだ?」


「近づかなくていいんだよっ!」


 火咲が、にやりと笑った。


「キョウスケ、そこに罠置いて。餌もね」


「了解」


 木の根の間の平らな場所に、≪満腹の罠:魔物寄せの香草肉≫を置く。


 中には、昨日焼いたばかりの香草肉。


 包みを開いた途端、思わず腹が減ってくるような匂いが漂い始めた。


「わたしも食べたくなってきちゃいました♡ ご主人様、あーんしてください♡」


「召喚解除っと」


 ベルと漫才をしている間に、火咲が、森狼と俺たちの間へ手を向ける。


「【流動音響】」


 次の瞬間――


 ざっ、ざっ、と、足音が聞こえた。


 俺たちのいる場所からではない。


 狼たちを挟んで、向こう側の茂みからだった。


 森狼の耳が、音の方へ向いた。


 二頭とも、俺たちのいない方をじっと見つめている。


「今のうちに下がって! 人が来たと思わせて、あっちを警戒させるから」


 見ると、火咲は足音を鳴らすように木の葉の上で足踏みしている。


 俺たちは木々の陰へ後退する。


 火咲の足音は、狼の向こう側で、ゆっくり近づいているように聞こえた。


 姿の見えない相手を警戒した森狼が、唸りながら、少しずつ後ろへ下がる。


 と、肉に気付いたようだ。


 まず二頭が一斉に、こちらの地面へ鼻先を向ける。


 匂いを嗅ぎながら、一歩、二歩。


 俺は木の陰で、思わず息を止めた。


 森狼が、大きく口を開ける。


 そして――


 一頭ががぶり、と香草肉へ食いついた瞬間、地面に寝かせてあった鉄輪が跳ね上がった。


「ガゥッ!?」


 胴を抱え込まれた森狼が、足をばたつかせて転がる。


「掛かったっ!」


 思わず声が出た。


 もう一頭が危機を察して逃げ出す。だが、捕まった方は暴れながら動けずにいる。


「よし! キョウスケ、押さえて!」


「おう!」


 俺は飛び出し、暴れる狼のそばへ膝をつく。


 牙が見えた。でかい。近くで見ると、なおさらでかいっ!


「こいつ、本当にテイムできるんだろうな!」


「もちろん!」


 噛まれないように横へ回り、鉄輪を地面へ押しつける。


 狼は首を捻って俺に牙を向けようとしたが、その鼻先へ火咲が残りの肉を差し出した。


「はいはい、まだあるよ。美味しかったでしょ?」


 唸り声。


 それから、鼻を動かす音。


 森狼はしばらく俺と肉とを見比べた末に、結局、肉の方へ口を伸ばした。


 よし、俺より肉の方が美味そうだと思ってくれたらしい!


 火咲が契約魔術を唱える。


 狼の身体を光が包み――


==========

 <≪森狼≫のテイムに成功しました!>


 ≪森狼≫:10点

 チームの暫定得点:10点

==========


「よしっ!」


「やったねっ!」


 火咲と、思わず顔を見合わせる。


 作った罠が、ちゃんと役に立った。


 目の前で本物みたいに牙を剝いていた狼が、俺の作った道具で捕まり、今は火咲の手に鼻を擦りつけている。


 まずは順調な成功に、俺は一息をついた。





 *****





 ――と、俺たちが最初の成功に喜んでいた、その時だった。


 木々の向こうから、大きな羽ばたきが聞こえた。


「……ん?」


 反射的に身構える。


 太い幹の間を、赤い翼が横切った。


 竜だ。


 大人の人間よりも大きな竜が、枝を揺らしながら、低く飛んでいる。


「……ベビードラゴン!?」


 火咲が声を上げた。


 竜の下を、灰色の獣たちが走っていく。


 森狼が、三頭。


 追われているのだ。


 その逃げた先で、突然、地面がせり上がった。


 突然現れた土の壁を避けようとして、狼たちが横へ向きを変える。そこには、張り渡された大きな網があった。


「入った! 押さえて!」


 知らないプレイヤーの声が飛ぶ。


 網に絡まった狼たちへ、二人の魔術師が駆け寄った。


 そして、竜の背から、一人の女性が降りてくる。


「そのまま。そのままね。火は吐かないで」


 女が首を撫でると、竜は従順に頭を下げた。


 ……もう、テイムされている。


「あの竜、持ち込んだのか?」


「いや、ベビードラゴンは初心者の階層には出ない。もうテイムしたんだね」


「あれは、β組かな……」


 火咲は、さっきまでとは違う真剣な顔で、その光景を見ていた。


 俺は、そこでようやく気付く。


 竜を捕まえれば、それだけで150点。


 だが、それで終わりではない。


 あのチームは、その捕まえた竜を使って、今度はほかの魔物まで追い立てる助けにしているのだ。


「この試験、得点した分だけ、戦力も増えるのか……!」


「そう。この試験、後から追いつくのはだんだん難しくなる。いわゆるスノーボールするゲーム性なんだよ」


 火咲が配点表を開き直した。


「次は、わたしたちの得意な方法で捕まえられて、捕まえた後にも活躍できる魔物。そういうのを探そう」


 なるほど。それなら俺たちにも――


 そう思って一覧を眺めていた俺の目が、一つの項目で止まった。


==========

 ≪ラミア≫ 100点


 人の女性に似た上半身と、強靭な蛇の下半身を持つ魔物。

 高い知性を持ち、言葉を理解する。

 獲物を魔眼で引き寄せ、長い尾で絡め取り、決して逃がさない。

==========


「……火咲」


「なに?」


「これ、俺ならいけるんじゃないか?」


 火咲が、俺の開いた項目を覗き込む。


 それから、俺の顔を見る。


「……あー」


 そして、もう一度、説明文へ視線を戻した。


「なるほど。キョウスケの《《得意分野》》だね」


 俺の固有スキルは、【魅了】――


 まさしくこういう時のためにある、テイム特化スキルである。


「ご主人様っ♡ 捕まえても、あくまで正妻はベルですよねっ♡」


「お前は勝手に出てくるな」


 妄想たくましい鐘妖精を再び召喚解除しつつ――


「んじゃ、《《占おうか》》」


 俺たちは次の一手を打つのだった――


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