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第18話 ラミアは獲物を逃がさない

「【卜占未来】」


 ツキトが卜占魔術を詠唱する。


 俺たちの次の獲物――ラミアを見つけるための占いだ。


==========

 <占いの結果が出ました!>

 北西500メートル先の岩場にて、日向で休むラミアと出会うでしょう。

==========


「北西だね。行こうか」


「便利すぎるな、占い……」


 森の中を闇雲に探していては、いったいどれほど時間を無駄にしたことだろう。


 俺たちは火咲のテイムした森狼に匂いを調べさせつつ、木々の間を進んでいった。


 やがて、頭上を覆う枝葉が途切れる。


 木漏れ日の差し込む岩場に、長い尾が伸びていた。


 深緑色の、大蛇の尾。


 その鱗は日の光を受けて、宝石のように輝いている。とぐろを巻いた先を、ゆっくりと視線で辿っていくと――


 ――黒髪の美女が、こちらを見ていた。


 大人びた顔立ちに、金色の瞳。


 上半身を覆う薄い衣は、豊かな身体の曲線を隠せていない。

 片手で頬杖をつき、もう片方の手で長い髪を弄びながら、ラミアはゆったりと微笑んだ。


「あら。人間のお客さん?」


「……ベルといい、普通に喋るんだなぁ」


「話が早そうでいいじゃん! ほら、キョウスケ、出番だよ!」


 火咲に背中を押され、俺は一歩前へ出る。


 ラミアの顔を見る。


 そして、改めてその下に続く、美しい人間の身体を見る。


 綺麗だ。


 だが、その下にある長い尾に締められたら、頑丈の値がいくつあっても命が足りなさそうだ。


「そんなところにいないで、こっちへいらっしゃいな」


 ラミアの瞳が、淡く輝いた。


 その瞬間、ふっと足が前へ出そうになる。


 近づきたい。


 あの綺麗な瞳を、もっと近くで見たい――


 ……これが、魔眼っ!


 俺はなんとか踏みとどまった。


 なるほど。こうやって獲物を引き寄せるわけだ。


 だが、その手の魔術なら、俺だって負けていない。


「【魅了】」


 今度はこちらから、彼女を見つめる。


 すると――


 それまで余裕たっぷりだったラミアの表情が、ぴたりと止まった。


「はぁ、はぁ……」


 息が、荒くなる。


 その頬は、みるみるうちに赤くなっている。


「あなた……」


 長い尾が、とぐろを解く。


 そして、するすると岩場を滑り下りてきたラミアは、俺のすぐ目の前で立ち止まった。


 近い。


 ものすごく近い。


 金色の瞳に映った俺の顔まで、はっきりと見える。


「お名前は、なんていうのかしら?」


「キョウスケだ」


「キョウスケ……」


 ラミアは俺の名前を呟き、嬉しそうに目を細めた。


「いい名前ね。わたしの伴侶に相応しいわ」


 ――効いたっ!


 紛れもなく、効いたっ!


「伴侶は今後検討するとして――よかったら、俺たちの仲間になってくれないか?」


「仲間?」


「今、魔物をテイムする試験を受けてるんだ。お前みたいに魔物を引き寄せて捕まえられる仲間がいれば、すごく助かる」


「一緒に狩りをするのね?」


「まあ、そういうことだ」


 ラミアは、俺の顔をじっと見つめる。


 それから、するり、と尾の先が俺の足元へ回ってきた。


「いいわ。あなたと一緒なら、楽しそうだもの」


「よしっ! じゃあ、契約魔術をわたしが書くね!」


 火咲が前へ出る。


 ラミアは頷いたものの、俺の足に回した尾を離す気はないようだ。


 そのまま、火咲が契約魔術の書面を書き、俺に渡す。


 その書面をラミアに使うと――


==========

 <≪ラミア≫のテイムに成功しました!>


 ≪ラミア≫:100点

 チームの暫定得点:110点

==========


「よっしっ! 100点ゲット!」


 火咲も喜んでいる。


「いやー、キョウスケはなんて便利なんだ」


「ふふっ。とてもこの試験に向いた固有スキルだね」


 これは、この試験は楽勝かもしれないな。


 そう思った、その時――


「うわっ!?」


 突然、足元がぐいっと持ち上がる。


 いつの間にか俺の膝の裏へ回り込んだ蛇の尾が、巻き付いて俺を引っ張る。


 そのまま、俺はラミアの上へ座らされてしまった。


「それじゃ、行きましょうか。次は、何を捕まえるのかしら?」


「ちょっと待て。この体勢で行くのか?」


「歩かなくて済むでしょう?」


 確かに。


 確かにそうだがっ!


 美女の身体をすぐ横に見つめながら、蛇の身体は滑るように森を進んでいく。


 長い髪が頬をくすぐる。女の子の匂いが近い。


 ものすごく落ち着かない乗り物を手に入れてしまった。


「……捕まえたはずなのに、キョウスケが捕まってない?」


 火咲の突っ込みは的確だったが、俺にはどうしようもない。


「逃げたいのかしら?」


「いや、そういうわけではないけどな」


「なら、いいじゃない」


 ラミアはご機嫌に笑い、俺を尾に乗せたまま、森の中を進んでいった。





 *****





 ラミアの有能さが分かったのは、その直後だった。


「占い通り、あれが≪鎧猪≫かな。あの木の根元だよ」


 ツキトが、小声で告げる。


 指さした先には、分厚い甲殻のようなものに背中を覆われた、大きな猪がいた。


 そいつは長い牙で土を掘り返し、何かを食べている。


 ちなみに、30点の魔物だ。


「あれは、正面から押さえようとしたら大変かもな」


「よし、わたしに任せて!」


 火咲が、にやりと笑った。


「ラミア、キョウスケを降ろして、そこで待っててね。【流動音響】」


 火咲がぱんっと大きく手を叩く。


 鎧猪が、顔を上げる。


 まるで、ラミアの方から聞こえたかのように、真っ直ぐラミアを見て。


 そして、ラミアの金色の瞳が、きらきらと光った。


「いらっしゃい……」


 ――猪が、歩き始める。


 のしのしと、まるで呼ばれた飼い犬のように、ラミアの方へと近づいていく。


「……やるな」


 鎧猪は、俺たちが近くにいることさえ気にならない様子だ。

 ただ、ラミアの瞳だけを見つめながら、こちらへじっと歩いてくる。


「キョウスケ、お肉をお願いできる?」


「おう!」


 俺は罠に入れていない余りの香草肉を取り出す。


 猪がそれへ鼻を寄せたところで、ラミアの尾が、するりと胴を巻いた。


「ブギッ!?」


 我に返った猪が、四本の脚を踏ん張る。


 だが、ラミアは涼しい顔をしていた。


「暴れると食べにくいでしょう?」


 牙がこちらへ向かないようにしつつ、俺の差し出した肉の前へ鼻先を寄せてやる。


 その手際は、あまりにも鮮やかだった。


「簡単なものね」


 そう言って微笑む美女の足元で、分厚い鎧を持つ猪が、完全に押さえ込まれて、肉に夢中になっている。


 ……伊達に100点の魔物じゃないな、こいつ。


 普通に戦ってたら、結構まずかったんじゃないか、これ?


「おっけーっ! そのままお願い!」


 火咲が猪へ近づき、契約魔術を使う。


==========

 <≪鎧猪≫のテイムに成功しました!>


 ≪鎧猪≫:30点

 チームの暫定得点:140点

==========


「いいねっ!」


「この調子なら、かなりいけそうだね」


 ラミアは尾を放し、≪鎧猪≫は立ち上がる。


「ふふっ、我が伴侶の助けになれて嬉しいけど……このお礼は、あとでたっぷりとしてもらいますからね?」


 気付けば、ラミアの瞳は金色に輝き、俺はぼうっと幻惑されて、劣情を催していた。


「はっ! ご主人様が悪い女に騙されていますっ♡ 幸せの鐘を鳴らしますよっ♡」


 と、いつの間にか再び召喚されていたベルが、【妖精鐘:タロットベル】をまたもや勝手に使う。


 森の中に美しい鐘の音が響き渡り――


 至近距離で聞いた鐘がうるさすぎて、俺ははっと意識を取り戻す。


「キョウスケはほんっっとうにっ、ヘンタイなんだからっ……!」


「誤解だ」


 そんな会話をしながら、元に戻れた安堵とちょっとばかりの残念さを感じていた、その時だった。


=========

 <警告!>

 <エピックイベント:≪上級への飛び級試練≫発生!>


 鐘の音に驚いた森の中のベビードラゴンは、親竜を呼び寄せる!

 エピックモンスター:ファイアドラゴンの炎で、辺り一面が灰燼と化す!

 ファイアドラゴンをテイムしたチームは、一撃で上級魔術師に飛び級合格する!

=========


「……は?」


 うちの馬鹿妖精は、またもやとんでもない事態を呼び寄せてしまったらしい――

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