第14話 錬金術師ロールプレイには犠牲が伴うようです
翌朝。再びゲームを起動した俺は、学生寮の自室で錬金術師としての初仕事をすることにした。
研究机の前で、錬金魔術のスキルツリーを開く。
中級試験まであと2日である。捕まえる道具を作ると言ったのは俺である以上、仕事は果たさねばなるまい。
錬金魔術のスキルツリーには、習得済みの【錬金料理】【生命錬金】に加え、未解放の【錬金調合】【錬金精錬】といった錬金スキル、【料理マスタリー】【調合マスタリー】【精錬マスタリー】といったパッシブスキル、必要系統不足により習得不可能となっている【物質錬金】【錬金数秘】などが表示されていた。
錬金魔術というのは、どうやらスキルツリーを解放していくと作れる物が増えていくらしい。
料理、調合、精錬、生命。ジャンルごとに錬金スキルというものがあり、それをスキルツリーで解放していかないと、まともに何も作れない。
そして、スキルツリーの解放条件には、様々な魔法材料の消費のほか、特定の≪式≫の保有や理論書の読破などのフラグ条件があるようだ。
火咲が式を集めないと弱いと言っていたのは、こういう意味か、と納得する。
俺が今使えるのは、【錬金料理】と、【生命錬金】だけ。
【生命錬金】は、生命魔術と一緒に取ったからか最初から解放されていたレアスキルだが、素材の欄が全部空欄で、何を作れるのかすら分からない。宝の持ち腐れとはこのことだ。
というわけで、まずは料理からである。
錬金術師の初仕事が飯作りとは、これいかに?
いや、今はいいとしよう。
このゲームの錬金術師はコック業もする。
そういうロールプレイでいこう。
素材は、昨日火咲から預かった≪巨大肉≫と、同じく火咲が買ってきた≪香草≫。ベビーグリフォンをテイムするために買って、結局殴り殺したせいで使わなかった代物と、魔物が好むとNPC商人が喋っていたらしい香草である。
チュートリアルによれば、錬金の基本は、≪材料≫に≪錬金意図≫を込めることであるそうだ。
≪材料≫は、≪巨大肉≫、≪香草≫。
≪錬金意図≫には、「魔物を強く引き寄せて、抗いがたくする料理」。
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≪魔物寄せの香草肉≫
材料:魔力1、巨大肉、香草
周囲の魔物を匂いで引き寄せる。食べた魔物は満腹になる。
≪巨大肉≫、≪香草≫を消費しました!
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できた。そして、焼けた。
研究机の脇で肉が焼ける音がして、部屋の中に、とんでもなくいい匂いが広がっていく。
うまそう、などというレベルではない。
腹の底を直接掴まれるような匂いだった。
「ご主人様っ、わたしも引き寄せられちゃいます♡ 食べていいですかぁ♡」
「ダメに決まってるだろ!」
その時、隣の部屋の壁が、ドン、と鳴った。
「なんか隣からすっっっごい匂いするんだけど!? なにこれ、おなか減る! ずるいずるいっ!」
あっという間に火咲が入ってくる。火咲の意識は、完全に肉だけを向いていた。
「魔物寄せの料理を作ったんだよ」
「魔物寄せ!? なんでわたしが引き寄せられてるの!?」
「知らん」
「……この料理には、【魅了】が籠ってると見た!」
「アホか」
火咲はまったく意味が分からないことを言いながら、肉を一切れちぎって口に入れた。
「……めっちゃうまい!」
「……すごいゲームだな」
「わたしも一口いただいちゃいますねっ♡」
どうやら我慢できなかったらしく、ベルも火咲よりだいぶ大きい一口を食す。ま、これくらいは見逃してやるか……
なんにせよ、とりあえず――
俺の錬金術師ロールプレイとしての第一歩は、無事成功したようだ。
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問題は、ここからだ。
料理で引き寄せるところまではいい。
次は、引き寄せた魔物を動けなくする罠を作らないといけない。
罠を作るなら、精錬だろう。
スキルツリーの【錬金精錬】の所を開く。
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【錬金精錬】:未解放
解放条件:
・フラグ:錬金炉の理論書の読破(0/1)
・≪鉄鉱石≫(0/5)
・≪銅鉱石≫(0/5)
・式≪融解≫
・式≪冷却≫
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「錬金炉の理論書と鉄鉱石5個と銅鉱石5個と≪融解≫と≪冷却≫の式とか必要なもの多すぎだろ! 一体どこにあるんだ……」
「理論書は錬金魔術のキャンパスだと思う。第8キャンパスだよ。鉄鉱石と銅鉱石は、掲示板だと5層の≪魔鉄鉱山≫で採掘だね。店でも買えるけどまあまあ高い」
火咲は伊達にβを遊んでいないようで、俺の問いに即答した。
「≪融解≫の式はちょっと分からないけど攻略ウィキになんかあるかも。≪冷却≫の式は、≪火炎≫の式をくれる第3層の魔導師のおじいさんがイベントでくれたはず」
「絶望的状況だな。それだけで1日2日潰れそうだ」
「試験は明後日だよ?」
俺はスキルツリーの画面を閉じて、別の画面を開いた。プレイヤーポイントのボーナス一覧である。
ゲーム開始から、ずっと9ポイント貯まるまで温存してきたプレイヤーポイント。
そのボーナス一覧の中に、その選択肢はあった。
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≪スキルツリーの任意の初級ノードを強制解放する≫ 1PP
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「……これしかないか」
「えっ、プレイヤーポイント使うわけ?」
「時間は今、貴重な資源だ。この1点で、俺は時間を買うんだ」
「初めてを、可愛い子を捕まえるための罠に使うんですね♡」
「そのどうしようもない言い方をやめろ」
あれだけ悩んで、温存したものを、たかが罠のために使う。
人から見れば、ちょっと馬鹿かもしれない。
だが――
俺はそもそも、錬金術師ロールプレイをしに来たのだ。
錬金術師が基本的な行動すらできないままでは、話にならない。
そして、俺はついに選択する。
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<プレイヤーポイントを1消費しました!>
【錬金精錬】を解放しました!
残りプレイヤーポイント:8
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……使ってしまった。
やってしまえば、あっさりしたものだったな。
「で、精錬する素材はあるの?」
「……ない」
「馬鹿じゃないの!?」
鉄鉱石がないから精錬が解放できなかったのだ。解放しても、鉄がない。当然である。
「……【縛りプレイ】の鉄環で使った≪鉄鉱石≫が2つ余ってるけど、しょうがないからあげるよ。いっとくけど、これ安くないんだからねっ!」
火咲が渋々差し出した≪鉄鉱石≫2つを受け取って、研究机に戻る。
≪材料≫は≪鉄鉱石≫と≪魔物寄せの香草肉≫。
≪錬金意図≫は「魔物をいい匂いで引き寄せて、捕らえる罠」
罠の上に置いた料理に引き寄せられた魔物を捕らえる、古典的な罠をイメージした。
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≪満腹の罠:魔物寄せの香草肉≫
材料:魔力1、鉄鉱石、料理
罠の上の料理を食べた魔物1体を、捕らえる。
≪鉄鉱石≫、≪魔物寄せの香草肉≫を消費しました
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そうして、無事罠ができた。
「おーできたね。貴重なプレイヤーポイントを代償にしてるけど」
「いいんだ。俺は一刻も早く錬金術師ロールプレイがしたかったんだ」
犠牲無くして前進は得られない。そういう風に、世の中はできているんだ。
「一度食べたら胃袋を掴まれちゃうんですね♡ ご主人様、それはベルへのプロポーズですかっ♡」
――この馬鹿妖精を黙らせる魔道具の作成は、そろそろ真面目に検討した方がいいかもしれないな。




