EP6:ザ・ダークサイド
マツから受け取った最短ルートは 完璧だった。両の頬を真っ赤に腫らしたシュロは、気まずそうに顔を背けるプリムラの手を引き、迫り来る警吏のドローンを撒きつつ【実験都市 コロニー・アーク】の最深部へと潜り込んだ。
一般コロニー市民すら存在を知らない、二重障壁の先。そこにあったのは 巨大な水槽状のカプセルが何千何万と並ぶ、無機質な工場空間だった。そして、カプセルに満ちているのは培養液ではなく、明滅する電子の光――すなわち、電子化された『魂』であった。
「噓でしょう?」意識を表に出したアザレアの顔から 余裕が消え失せる。
「ここは、大戦時に私たちの意識をサーバーへ移送するための『抽出プラント』だった場所よ。なぜ、今も稼働しているの……?」
アザレアが中央端末に接続し、二つ目のデータキーのロック解除を始めると、モニターに【アーク】がひた隠しにしてきた都市の機密事項が映し出された。
この都市が誇る煌びやかな超古代文明の技術。その機構を動かす莫大なエネルギーはすべて、捕獲されたあまたのロストバディの精神データを『燃料』として消費することで、成り立っていたのだ。ゼフィランサスが言っていた「情報が出回って 警戒されている」の真の意味は、これだった。コロニー上層部は、彼らを永久機関のバッテリーとして 組織的に狩っていたのだ。
「なあ アザレア、これじゃあ 俺たちのやってることは……!」
シュロが激しい衝撃に言葉を詰まらせる。三つのロックを全て解除すれば、それはロストバディを救うと同時に コロニーに「すべての魂を強奪・燃料化するチャンス」を与えてしまう諸刃の剣だった。
「……それでも、ロックは解除するわ」
アザレアはプリムラの小さな唇を嚙みしめ、静かな怒りを抑え込んだ声で言った。
「同胞を こんな場所で燃料にされ続けるくらいなら、リスクを背負ってでも ゲートを開放してあげるのが 私の役目よ。……それに、この方法でしか プリムラの肉体も あなたの未来も、返せないもの」
ハッキング率が100%に達し、二つ目のロックが解除される。と 同時に、赤色灯が激しく明滅し、侵入者を察知した『ロストバディ捕獲特務部隊』のけたたましい警告アラートが鳴り響いた。
「データキーは抜いた! ずらかるぞ、アザレア!」
シュロは隠しておいた即席バイクにプリムラを乗せ、駆動モーターを爆発させた。ここからは マツのマップデータと、シュロのトラッシュとしての生存技術の見せ所だ。背後から高圧電流ワイヤーを放つ高速捕獲ドローンが容赦なく迫る。
「アザレア、携帯端末のマップに直アクセスできるか!? 敵の先回りを全部潰す!」
「任せなさい! 300メートル先、左の排気ダクトよ。警吏のセンサー範囲を今からハッキングして上書きするわ」
幅わずか数十センチの、崩壊してコロニーのデータから消えているはずの極狭の裏路地に、都市の規定を完全に無視した運転技術で滑り込む。追従してきたドローンたちは無茶苦茶な走行に振り回され、次々と障害物に激突しては大破していく。
「ざまあみろ、規則しか守れねぇ 玩具どもが!」
しかし 地下廃棄区画の出口である隠し通路が見えてきたところで、巨大な防御隔壁がゆっくりと閉まり始めた。安全上の理由もあり 即座に道を塞がれることはなさそうだが、閉ざされてしまえば完全に袋のネズミだ。
「やだ……シュロさん、お姉ちゃん! 閉まっちゃいます……っ!」
恐怖のあまりシュロの背中にしがみつき、プリムラが悲鳴を上げる。
「心配ねぇよ、しっかり掴まってな!」
シュロはバイクのアクセルをオーバーヒート寸前まで踏み込み、火花を散らしながら すれすれまで迫った防壁の隙間を滑り抜け、都市の外へと飛び出した。
背後では追手の光が遠ざかり、重々しい鉄扉がピタリと閉鎖される。夜明けの赤い光が照らす荒野を走り抜け、二人乗りの簡易バイクは 拠点であるロストシティの廃墟へと帰還した。再度の無理な走行で、即席の簡易バイクは変な音と黒煙を上げている。
バイクを降りた途端、プリムラは一気に押し寄せた恐怖と安堵に ボロボロと泣き出してしまった。アザレアも巨大システムを相手にした負荷で消耗し、シュロの胸に押し当てられたプリムラの額から酷い熱が伝わってくる。泣きじゃくるプリムラに戸惑いながらも 不器用に身体を支え、ベッドで休ませながら シュロは二つ目のキーデータを見つめていた。
「コロニーの奴らなんかの、好き放題にさせてたまるかよ。……アザレア、プリムラ。絶対に最後のロックも解除して、お前らを救ってやるからな」
少年の瞳には世界の構造そのものに対する、決して消えない反逆の炎が灯っていた。
【エピソード和訳】
EP1:少年、古代人の成れの果てと出会う
EP2:セクシー美男子がやって来た
EP3:緑の魔窟にて
EP4:着信アリ
EP5:らっきーすけべってヤツ
EP6:栄華の裏側




