EP4:ユー・ガット・メール
防衛システムが安全モードに切り替わったコア室は、静かで頑丈なシェルターとなった。シュロはハッキングの負荷で高熱を出して倒れたプリムラをそっと床に寝かせ、トラッシュの知識をフル動員して看病した。手持ちのサバイバルキットで薬効のある植物を精製し、即席の熱冷ましを飲ませては、汗の滲む額を拭ってやった。
プリムラが深い眠りに就いている数日間、シュロは一刻も無駄にしなかった。ドーム内に転がっている、壊れた防衛ロボットの駆動モーター、コロニー先遣隊が乗り捨てた車両の残骸、遺跡の精密な電子パーツ。それらを執念でかき集めた。スパナを握り 油にまみれながら、荒野を走るための『簡易モーターバイク』をガタガタと組み上げていく。シュロが一番、生きているという実感を持つ時間だった。
数日後、すっかり熱の引いたプリムラが目を覚ました時、そこには無骨なジャンクバイクと 満足げに鼻の頭を擦るシュロが立っていた。
「よぉ、起きたか。……どうよ、お前を歩かせなくて済むように、そこらのゴミで足を作ってやったぞ。乗ってみな」
「わあ……! シュロさん、すごい! こんな乗り物 作るなんて、魔法みたい!」
目を輝かせるプリムラを後部座席に乗せ、シュロはエンジンを爆発させた。
「魔法なんてたいそうなモンじゃねぇよ。……ほら、振り落とされないようにしっかり掴まってろよ。アザレアにも言っとけ、スピード出すから 舌嚙むなよって」
バイクがけたたましい音を立てて 人工のジャングルを疾走する。プリムラは初めて経験する「風」と「スピード」に、驚きと開放感の混じった表情を浮かべながらシュロの背中にしがみ付いている。身体の主導権はいまだプリムラであるものの、アザレアも口を出さすにはいられなかったようで「器用なものね。……乗り心地は最悪だけど、あんなガラクタを活用する腕前は認めても良いわ、私の次期宿主」と耳元で囁いた。「うるせぇ!」と一蹴し、シュロはさらにアクセルを踏んだのだった。
*
二人は無事に、最初の拠点であるロストシティの隠れ家へと帰還した。無理をさせ続けた簡易バイクは、拠点に着いた途端に黒煙を上げて沈黙してしまった。「ここまで よく持ってくれたな」と愛車を労い、早速 修理に取り掛かろうとシュロは工具箱を持ち出した。ちょうどその時、古いモニターが点滅しているのに気付き、何者かから連絡メールが入っているのを見つけた。
添付されていたビデオメールを再生すると、画面には相変わらずクール系セクシー美男子宿主のままのゼフィランサスが、文字通りの悩ましげな顔で映し出された。
『やあ、アザレア、シュロくん、プリムラちゃん! 無事に最初のロックを解除できたみたいだね、さすがだよ! ……いやー、実はさ、僕の方はちょっとピンチでね。最近はコロニーの連中にも だいぶ僕らの情報が出回ってきてて、いつもと同じじゃ 契約が取れないんだよねー。お偉いさんたちも「肉体を奪われるリスク」を警戒し始めちゃっててさ。だから 新しい宿主くんを見つけるまで、そっちには顔出せそうにないんだ。……顔だけにね』
「うるせぇよ」
こちらの呟きが聞こえているはずはないが、画面の中のゼフィランサスは 綺麗に眉をひそめて見せる。
『でも、仕事はちゃんとしたよ! 君たちが手に入れたデータと、僕がハッキングした情報を照合した結果……二つ目の中継施設の目星が付いた。場所はここから西にある【実験都市 コロニー・アーク】、ここまでは知ってるね? その最下層、一般の立ち入り禁止区画の奥さ。詳しい注意事項と潜入ルートのデータは添付しておくよ。それじゃ、お互い生き残って また会おうね!』
ホログラムが消える。ゼフィランサスがすぐに合流できないということは、自分たちだけでセキュリティの厳重な敵地へ潜入しなければならない ということだ。
「なんだよ、あいつが居りゃあ、コロニーのコネでスイっと入れると思ったのに。結局、俺の地道なやり方で 忍び込むしかねぇか」
添付された警吏の巡回ルートデータを睨みつけながら、シュロは愚痴をこぼした。
「そんな大都会、トラッシュの私たちが近づいたら、すぐに捕まっちゃうんじゃ……」
不安げに身を寄せるプリムラの頭を、シュロは無造作にポン、と叩いた。
「安心しろ、トラッシュってのはそんな鈍くさいモンじゃねぇ。……さぁ、潜入の準備を始めるぞ」
次のステージである冷徹なディストピア都市【コロニー・アーク】の闇へと、シュロたちの意識は向かっていくのだった。
【ゼフィランサス(玉簾)】
花言葉:清純な愛 期待 便りがある




