EP3:イン・ザ・グリーンヘル
「おっと、僕のスマートな愛車で進めるのはここまでだ。この先は植物の根が、電子機器を感知して攻撃してくるからね。それじゃまた、後でね。……死なないでよ?」
ゼフィランサスのクールな見送りとともに高級装甲車が去り、シュロたちの前に立ちふさがったのは、異様な圧力を放つ緑の魔窟だった。かつて世界環境を調整していた【気象管制バイオドーム】の損壊により、中から溢れ出た未知の遺伝子組み換え植物たちが、不毛の荒野に狂ったような巨木の壁を形成している。
「おい、アザレア……じゃなかった、プリムラ。ここからは 俺の足跡だけを踏んで歩け。一歩間違えたら 人食い植物の餌食だからな」
シュロは腰から拾い物の鉈を引き抜き、反対の手には植物の毒気を中和する 自作の特製スプレーを構えた。装甲車という文明の利器を失った瞬間から、シュロの本領発揮だ。
「は、はい……!」植物のくせに不気味な鳴き声を上げる茂みに怯え、プリムラはシュロの服の裾をギュッと掴む。
ドームの奥へ進むほど、植物たちは単なる自然物ではなく『何か』を守るための 防衛兵器としての本性を見せてきた。たとえば、熱を感知して追尾してくる茨の鞭や胞子を散布する自爆型の巨大花など。
「くそっ、次から次へとめんどくせぇな……!」
シュロはそれらに真っ向からは相手をしなかった。持ち前の素早さでプリムラを庇いながら、補充しておいた自作のマキビシを植物の感覚器官に投げつけ、追尾を狂わせる。舞い散る胞子は煙幕で吹き飛ばした。視覚を縫うように進むその姿は、過酷な環境を生き抜いてきたトラッシュの知恵そのものだった。
やがて、中枢へと続く重厚な障壁の手前に辿り着き、シュロは足を止めた。視線の先には 無残に息絶えたコロニーの先遣隊の遺体と、大破した近代兵器が転がっていた。重武装のはずの兵士が、植物の根に絡めとられて 物言わぬ塊と化している。
「ひゃあ……っ!」凄惨な光景にプリムラは小さく悲鳴を上げ、体を震わせる。
シュロはプリムラの視界を遮るように、その小さな手を自分へと引き寄せた。
「ほらな。最新兵器に頼って正面から突っ込んだ結果が、ご覧の有り様だ……行くぞ」
あえて遺体から目を背け、現実だけを見据えて突き進むシュロの背中に、プリムラは恐怖を越えて 強い安心感を覚えていた。
だが、立ちはだかる中枢への鉄扉は、ゼフィランサスから預かったコロニーのハッキングツールでも 解除できなかった。超古代技術のセキュリティで、完全にロックされているようだ。
「チッ……物理的に ぶっ壊せるレベルじゃねぇな」
シュロが舌打ちした瞬間、プリムラの身体からガクンと力が抜け、その瞳に冷徹な知性が宿った。アザレアへのスイッチだ。
「ここからは私の番ね。――野蛮人、ちょっとプリムラの身体を支えておきなさい。このセキュリティ、大戦当時の私の部下が作ったプロトタイプ、そのままだわ」
「部下って……お前、大戦の時 どんな階級にいたんだよ」
「教えてあなたに伝わるのかしら?」
シュロが呆れながらもプリムラの身体を支えると、アザレアは端末へ その小さな手をかざした。
直後、プリムラの指先から青白い光の電子回路が奔流となって端末へと走り出す。『警告。不正アクセスを検知――』という電子音声が響くが、アザレアの表情は変わらない。その指先は、古代の防衛システムをすさまじいスピードで上書きしていった。
数秒後、激しく赤く点滅していた防衛植物たちの警戒発光が『安全モード』の緑に切り替わる。と同時に、巨大な障壁が重々しい音を立てて開放された。
「……ふう。驚いた? これが私たち、ロストバディの力よ」
アザレアは得意げに笑って見せたが、プリムラの肉体はシュロの胸へと倒れ込んだ。
「お、おい、アザレア!?」
電子化した魂による超科学技術の行使は、プリムラの幼い肉体へ 大きな負荷を与えていた。眩暈を起こしただけでなく、プリムラの身体は恐ろしく発熱している。
開かれた扉の向こう、起動した古代のモニターには、一つ目のキーデータのダウンロード完了の文字と、次なる目的地が表示されていた。
――【実験都市 コロニー・アーク】。
「……もうから コロニーの総本山かよ」
シュロは熱を出したプリムラを背負い、無機質に文字列が表示されるモニターを睨みつけながら、奥歯をギリ、と嚙みしめた。
【プリムラ(桜草)】
花言葉:青春の恋 希望 運命を開く




