公爵の怒り※ソフィア父視点
私ルイス・オズワルデスタは怒っている。
原因は数日前に領地に向かった娘ソフィアを傷つけた男からの手紙のせいだ。
手紙にはこう書かれていた。
『ソフィア、君の為に縁談をいくつか用意させてもらった。皆いい男だ、私が保証する。きっと君も気に入る人が見つかるだろう。君を傷つけて本当にすまない』
アーサー殿下の事はこの国の将来を担う存在として期待したが今回の件で愚か者だという事がよく分かった。
娘の気持ちも考えず勝手に縁談を勧めてくるとは。婚約を喜んでいた過去の自分を殴ってやりたくなる。
「城に行ってくる」
「今からですか?」
「あぁ、そうだ。陛下達にソフィの事を話してくる」
「私も行きます。王妃様には私からお話しますわ」
「頼むよ」
屋敷の事をジョセフと執事長ジュードに任せて妻であるローラと王城に向かった。
陛下エドワードと王妃リリーとは長い付き合いだ。公爵家という立場もあって本来なら顔を見る事すら難しい彼らとはすぐに会う約束が出来た。
「よく来たな、ルイス」
「ローラもわざわざありがとう」
私と妻の怒りを感じたのか国王夫妻は怯えた様子を見せた。礼儀として挨拶をしてから彼らの前に座る。睨みつければ二人揃って申し訳なさそうに眉を下げた。
自分達の息子がやらかした話は既に耳に入っているのだろう。ならばさっさと言いたい事を言って終わらせた方が良い。
「友人と言わせてもらうが君の息子はどういう教育を受けているんだ、エド」
「すまない…」
「王太子妃の教育に関してはソフィが自ら頑張ると言ったから止めなかったのよ、リリー様」
「分かっているわ、ローラ」
過去に王太子妃教育で辛そうにしているソフィアに心苦しくなり厳しすぎるものは止めろと直談判した事があった。
王太子妃になるのは容易な事ではないし厳しくなるのも分かる。ただ幼い娘にやらせる事ではないと判断したから止めようとしたのだ。
私と妻が折れたのは娘が頑張りたいと言ってくれたから。
無理にでもやめさせておけば良かったと、婚約を交わさなければ良かったと後悔をしたのはソフィアが笑顔を見せなくなってからだった。
「まさかこんな形で裏切られるとは思わなかったよ」
「本当にすまない…」
「エド達が悪くない事は私達も分かっている。ただ君達の息子に対しては怒りで頭がどうにかなりそうだ」
「どういう事ですの?」
首を傾げる国王夫妻にアーサーから送られてきた手紙を見せると二人は揃って顔を青くさせた。おそらく手紙の件は何も知らないのだろう。
「これは…」
「こんな物をソフィちゃんに送ったの…」
自分から見ても殿下は真面目で優秀な子だったと思う。ソフィアを嫁に出すには良い相手だと考えていた。しかし彼は真面目過ぎたのだ。真面目だからこそ無意識のうちに愚かな真似をしてしまったのだろう。
「ソフィはこの手紙の事を知らない。今は領地にいるからな」
「今のリリー様達には会わせる事は出来ません。理由は分かりますわね?」
二人とも揃って首を縦に振った。
ソフィアは国王夫妻に気に入られている。
昔からアーサーの正妃にはソフィアが良いと何度も言われてきたのだ。だからこそ彼らがソフィア本人に婚約者のままでいてほしいと頼む恐れがある。そうなれば心優しいあの子はきっと断る事が出来ないだろう。
再び婚約者にするなど絶対に御免だ。
「陛下、今回は正式に婚約の解消を頼みに来ました」
「ああ…」
「王妃殿下、もちろん許可してくださいますよね?」
「ええ…」
公爵として国王夫妻に語りかける。
婚約の破棄と解消。どちらも婚約者を失う事には違いないが意味が大きく異なる。
貴族の世界は婚約を破棄された令嬢に厳しい。傷物として扱われ縁談も碌なものしか来なくなる。
それが解消となれば婚約自体がなかった事になり傷物として扱う人間は少ない為、縁談も問題なく進む。
落ち度のない娘が傷物になる事は許せないからこそ解消の形をとってもらうのだ。
「書類はこちらで用意させてもらいました」
「署名と捺印、それから受理をお願い致します」
覇気を失くしたまま署名と捺印をする国王夫妻にため息が出た。
国王として、王妃としては優秀な彼らだが親としては子を理解しなさすぎている。
「ソフィはエド達に会いたがっていた。今回の件が落ち着く頃には会いに来させるつもりだ」
「そうか…」
「代わりに手紙を預かってきましたわ」
「ありがとう」
ソフィアの手紙に何が書かれているかは知らない。しかしあの子の事だ。陛下達を気遣うような事ばかりが書かれているのだろう。
「それでは失礼する」
「その前にお二人は殿下の真実の愛のお相手を知っておりますか?」
立ち上がろうとした私を止めたのは妻ローラだった。
彼らにあのストーン伯爵令嬢の話をしようとしている事に苦笑する。
「ああ、聞いている」
「それがどうしたの?」
「気をつけた方がいいですよ。その方、誰の子を身籠るか分かったものではありませんので」
妻の台詞に二人とも言葉を失った。
当たり前だ。間接的にストーン伯爵令嬢が多くの男性と関係を持っている事を匂わせたのだから。
王族に嫁ぐ資格として定められているものは爵位が伯爵である事のみ。ただそれは表向きに発表されているものの話。実際は生娘でなければならないという暗黙の了解がある。
つまりあの悪女に王家へ嫁ぐ資格はないという事だ。
「それでは失礼します」
「失礼する」
茫然とした様子の二人に礼をしてから部屋を出る。
「ねぇ、あなた。殿下は真実の愛を貫き通せるかしら」
「少なくともアーサー殿下は貫き通そうとするかもな?」
「私ソフィのところに行こうかと思っていたけど面白いものが見られそうだからまだこっちにいるわ」
くすくすと笑い合って王城を後にした。
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