兄夫婦
公爵家の領地にある本邸に到着すると出迎えてくれたのは兄のルイだった。
「ソフィ、よく来たね」
「お兄様、お久しぶりですね」
淑女の礼をしようとした瞬間、勢いよく私を抱きしめる兄に驚く。
最後に兄に抱きしめられたのは十年近く前になる。王太子妃教育が辛くて屋敷の隅っこで泣いていた私を優しく抱きしめてくれたのが兄だったのだ。それ以降は甘える事もなくなり私が成人を迎えてすぐ離れ離れになった。
十年振りの抱擁はあの頃と変わらず優しくて私を労る気持ちが十分に伝わってくる。
「今まで大変だったね。でも、もう大丈夫だ。しばらくゆっくり過ごすと良いよ」
兄の腕の中で優しい声が耳の奥まで入り込んでくる。それだけで安心してしまうのだから家族というのは不思議なものだ。
「お兄様、お気持ちは嬉しいのですが私はゆっくり過ごす為にやって来たわけじゃありませんよ。お兄様のお手伝いに来たのですから」
「そうか。そうだったね」
思い出したように頷く兄に本当に忘れていたのかと苦笑していると奥の方からお腹を大きくした義姉のレイラが姿を見せてくれた。
「あらあら、兄妹で仲良しね」
「レイラお義姉様!」
兄の腕の中から抜け出し義姉のところに行くと嬉しそうに笑ってくれた。
義姉の身体を気遣いながらそっと抱きしめ合う。
「久しぶりね、ソフィちゃん」
「お久しぶりですね」
「あら、前に会った時よりも美人さんになったわね」
「たった数ヶ月で変わるものではありませんよ」
義姉は私と同じように兄と弟に囲まれて生活をしていた為か姉妹に憧れていたらしく紹介された時から私に対しては特に甘いのだ。私も義姉に対しては素直に甘える事が出来た。それは彼女の持つ包容力の強さがそうさせていたのだろう。
「今まで大変だったでしょう?ゆっくりしていってね?」
「お義姉様までお兄様のような事を…。私はお義姉様の代わりの手伝いとしてやって来たのですよ?」
「そんな事言わずに仕事はルイに任せて私とのんびり過ごしましょう?」
「そうだよ、ソフィは今まで大変だったんだ。ゆっくりした方がいい」
夫婦は似るというけど本当にそっくりな二人だと微笑ましくなる。
今まで大変だったからといって何もせず甘えるのは性に合わないのだ。それに王太子妃教育で身につけたものを無駄にはしたくないし、兄達を支えるのに使えるというのなら使いたい。
「それでは一日だけゆっくりさせてください」
「毎日でも良いのよ?」
「それは駄目です。私は穀潰しになりたくないのですから」
「ソフィは真面目だな」
「本当に…誰に似たのかしら」
それは間違いなくお父様です。
二人には納得がいかないという表情をされるがこればかりは譲れない。
「それに仕事をしていた方が私としても気が紛れるので」
「そうか…」
「ソフィちゃんがそう言うならお願いするけど無理は駄目よ?分かってる?」
「分かっておりますわ」
こうして私は優しい兄夫婦に囲まれて領地での生活を始めた。
【☆☆☆☆☆】で評価をして頂けると嬉しいです。




