王太子の恋※アーサー視点
私アーサー・ハワードは十八歳にして真実の愛に巡り合った。
相手はデイジー・ストーン伯爵令嬢。
彼女と出会ったのは城下町をお忍びで視察している時だった。たまたま路地裏に連れ込まれそうになっていた彼女を助けたのだ。
泣いている彼女を放っておく事も出来ず、ただ傍に居た。ようやく泣き終えた彼女を送り届けて帰ろうとした瞬間に衝撃を受けた。
デイジーは真っ赤になった潤んだ目で私を見上げて来たのだ。
「まだ帰りたくありません」
愛らしい容姿、縋るような甘い声、全身の血が沸き立つかのように熱くなった。気がつけば私は彼女を抱き締めて口付けをしていたのだ。
婚約者がいる身でありながら婚約者にした事もない事を彼女にした。
その瞬間に私は彼女が自分の真実の愛の相手だと気がついたのだ。
駄目だ。自分には婚約者がいる。
幼い頃から私の為に頑張ってくれているソフィアを裏切るような真似は出来ない。でも、私が好きなのはデイジーだ。どうしようもない気持ちになりつつその日は彼女と別れた。
デイジーと再会したのは王城だった。
平民だと思っていたデイジーは実は財務大臣の娘だったらしく改めて彼から紹介を受けるとデイジーは顔を赤らめながら告げてきたのだ。
「まるで運命みたいですね」
照れ臭そうに笑って腕に縋りついてくる彼女を見た瞬間、私は彼女を婚約者にしようと決めた。
私が彼女を真実の愛の相手だと思ったように彼女も私を運命の相手だと思ってくれていたのだ。これはもう結ばれるべきなのだと頭の中がそれでいっぱいになった。
まずは婚約者であるソフィアとの婚約を破棄するところから始めなければならない。
婚約を破棄された令嬢が傷物と呼ばれる事も知っている。だから彼女には相応しい人物を何人か見繕うつもりだ。彼らに対して私から事情を説明すれば問題ないだろう。
ソフィアには泣かれるだろうか。嫌だと言われるだろうか。
どうあっても彼女を傷つけてしまう事に変わりはない。罵倒されようとも甘んじて受けよう。彼女が望む物なら何でもあげてもいい。ただ婚約破棄だけは絶対に受け入れてもらわなくてはいけない。
ソフィアが王太子妃教育にやって来た日、ついに私は彼女に婚約破棄を願い出た。
相手は誰かと聞かれたので素直に答えると彼女はどこか驚いた表情をする。ソフィアが何かを言おうとしていたが誤って遮ってしまった。
何を言おうとしたのか尋ねようとする前に婚約破棄を受け入れると言ってくれた彼女を見ても普段と変わらず何を考えているのかさっぱり分からない表情だった。泣く事も嫌だと言う事も罵倒する事もなくあっさりとした終わり方に私の方が少し動揺させられる。
ソフィアは帰る前、私に一つの物を返却した。
それは彼女の十三歳の誕生日に私があげた指輪。あげた物だからと返されそうになるのを拒むと彼女はどうでも良さそうに必要ないと突き返してきた。
そして最後に見た彼女の礼はデイジーに見せられたものよりもずっと綺麗で華やかなものだった。
一人残った部屋で返された指輪を眺めてようやく思い出した。
『ソフィア、君を一生大切にしよう』
この指輪を贈った際に私が告げた言葉。
きっと彼女はその言葉を覚えていたのだ。裏切られたと思ったに違いない。そして指輪を返すという行為は遠回しな怒りのぶつけ方だったのだろう。
「最低な男だな…」
それでも私はデイジーを愛している。
すまない、ソフィア。どうか愚かな私を許してくれ。
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