王都を離れて
「よりにもよって殿下のお相手が『最悪の悪女』とは…教えてあげなかったのか?」
「もちろん教えようとしましたよ。ですが、話を遮られて彼女への愛を語られたのでやめました」
あの惚れ込み様では教えたところで彼女を悪く言うなと言われそうですからね。
それにアーサーの見る目のなさに呆れたのも事実。次期国王として痛い目に遭ったら良いと思う。
私の答えに父も母も苦笑するしかない。引き気味の弟の頭を撫でて落ち着かせる。
「ねぇ、あなた。殿下があの女の正体を知ったらソフィに復縁を迫ってくるかもしれませんわ」
「そうだな。その前に手を打っておこう」
一度破棄された婚約を戻す事は出来ない。ただ相手は王族だ、どうにでもなるだろう。
復縁する気はないのですけどね。
「ソフィ、しばらくルイのところに行かないか?」
「お兄様のところですか?」
「そうだ」
ルイとは次期公爵として数年前から領地の管理を任されている四歳離れた兄の名だ。
つまり兄のところに行くという事は領地に行くという事である。しかしそうなるとここに住む家族とは離れ離れになってしまう。
どうしたものかと思っていると母に手を握られた。
「離れるのは事が落ち着くまでの間よ」
「お母様…」
「ソフィさえよければレイラの代わりにルイの補佐をしてほしいんだ」
レイラは二年前に兄と結婚した私の義姉に当たる存在。兄にお似合いの優しくて穏やかな人だ。
「お義姉様の代わりにお兄様の手伝いですか?」
「もうすぐ二人の子が産まれるのは知っているだろう」
「もちろんです」
二人から懐妊の知らせが来た時は屋敷中がお祭り騒ぎになったし、祝いの品も送っている。
「お腹も大きくなってきたからあまり無理をさせたくないそうよ」
「なるほど、そういう事でしたか」
婚約を破棄された今の私はいわゆる傷物令嬢だ。
アーサーは私の今後について支障が出ないようにすると言っていたけど余計なお世話だし、もう関わらないでほしいとも思う。
その点、領地に行けば彼に会わなくていいし、兄の手伝いで穀潰しにならずに済む。こちらの家族と離れるのは寂しいが今の私にとっては領地に行くのが最適解なのだろう。
「行ってくれるか?」
「もちろんです」
「助かるよ。明日にでも向かえるようにしておくか?」
「少しお時間をいただいてもよろしいですか?」
すぐ行くわけにはいかない。
アーサーにはお別れを言えたがお世話になった陛下や王妃様にはまだ言えていないからだ。
礼儀としてお礼とお別れはするべきだろう。
「領地に向かう前に陛下や王妃様にお会いする事は出来ますか?」
尋ねた瞬間、父も母も顔をしかめた。
そんな顔をしなくても…。
「駄目だ」
「ですが挨拶くらいは…」
「今は駄目って事よ」
どうして駄目なのだろう。
婚約破棄された人間が会いに行くのはいけないのだろうか。
「何故ですか?」
「陛下達がソフィを気に入っていると言ったでしょ。だから会いに行けば婚約者に戻されるかもしれないわ」
アーサーの婚約破棄はおそらく誰にも相談せず行われたものだ。陛下達が知った時にどうなるか分かったものではない。
彼の婚約者に戻るのは私としても本意じゃないし、今は諦めた方が良さそうだ。
「落ち着いたら会いに行っても良いですか?」
「もちろんだ。伝えたいことがあるのなら手紙を書きなさい。私が代わりに渡しておくよ」
「分かりました。ありがとうございます」
手紙だけでお礼とお別れをするのは良くないが落ち着いたらまた会いに行けばいい。
会ってくれるかどうかは分からないけど。
「陛下の方には私から伝えておこう。正式な婚約破棄もそこで行わせてもらう。ソフィは来なくても大丈夫だからな」
「分かりました。よろしくお願いします」
それから数日後、私は領地に向かった。
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