伯爵令嬢の正体
「真実の愛、ねぇ?」
ふふっと笑う母から妙な圧を感じて咄嗟に離れてしまう。弟も少し怯えてしまっている。
怖いですよ、お母様。
「お相手は聞いたのかい?」
「それがストーン伯爵令嬢だそうですよ」
彼女の名前を出した瞬間、父と母が吹き出した。
笑いたくなる気持ちは分かるけど貴族としては駄目な笑い方になっている。苦笑いで見守っていると何も知らない弟が首を傾げた。
「本当にあのストーン伯爵令嬢かい?」
「えぇ、あのデイジー・ストーン伯爵令嬢ですわ」
「私、殿下は賢い子だと思っていたのだけど案外馬鹿なのね」
楽しそうに笑う両親を見ながらジョセフが尋ねてきます。
「姉様、ストーン伯爵令嬢とはどのような人物なのですか?面白い方なのですか?」
何も知らない無邪気な弟にはあまり話したくはないのだけど公爵家の子女として知っておいた方が良いだろう。
「ジョセフ、彼女は男性好きなのよ」
デイジー・ストーン伯爵令嬢。
子に恵まれなかった伯爵夫妻の間にようやく生まれた一人娘。とにかく甘やかされて育てられた彼女は傲慢で我儘、自分の欲しいと思ったものは物であろうが人であろうが必ず手に入れないと気が済まない性格なのだ。
そんな彼女は成人を迎えたあたりから容姿の良さを活かして多くの男性と関係を持ってきた。恋愛に関しては個人の自由だ。問題なのは彼女が手を出す相手。既婚者であろうと婚約者がいようとお構いなしなのだ。結果、相手がいる男性は離縁したり婚約破棄になったりしている。その責任を彼女が取った事は一度もない。謝罪どころか嘲笑う始末だ。
そんな彼女は一部の人間から『最悪の悪女』と呼ばれている。
彼女に関する事が大きく出回らない理由は関わりを持った貴族男性達が自分達に関する醜聞を隠そうとする為。そしてストーン伯爵が財務大臣を担っている権力者だからだ。
私達が知っているのは彼女が迫った男性の中に父がいて身辺調査したからである。
母を愛している父は彼女と関係をもったりしていないしこの件に関しては公爵家に睨まれたくないからか伯爵から直々に謝罪があった。二度と父に近寄らないという事で決着したのだ。
「王子はそんな人間を真実の愛の相手だと言ったのですか?」
「知らなかったんだろうね」
「あまり知られていない事ですからね」
ショックを受けた様子のジョセフに申し訳なくなる。
ただ弟も十四歳となり来年には成人を迎える。背丈も伸び始めて男性として見られる事が多くなってきた。公爵家の息子というもあってお茶会に参加すれば多くの令嬢に声をかけられる。
そんな弟をあの悪女が見れば欲しがるだろう。
可愛い弟には素敵な相手を見つけてほしいのだ。成人する前に教えておいて損はないだろう。
「デイジー嬢には近づいちゃいけないわよ」
「近づきませんよ!お父様に迫るような女性ですよね?」
無理です!と大声で叫ぶジョセフはすっかり怯えた様子だ。この様子なら弟がストーン伯爵令嬢の毒牙にかかる事はないだろうと安心する。
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