家族の思い
「何故、喜んでいるのですか?」
疑問に思った事をそのまま口に出せば父は頬を緩ませたまま口を開いた。
「嬉しいからに決まってるだろう」
「何故ですか?私はお父様達が喜んでくださった婚約話を駄目にしてしまったのですよ」
悲しませ、怒らせる事はあっても喜ばれる理由がない。
名誉ある王族との婚約を駄目にしたのだ。
強く叱っても、屋敷から追い出しても良いくらいの事なのに。
「もちろん最初は婚約に賛成していたよ、名誉ある事だし。なによりソフィが幸せになれると思ったから嬉しかったんだ」
「でもね、小さい頃は笑顔ばかりだった貴女が王太子妃教育に行くたび暗い表情が増えていくのを見ていたら婚約話を受けたのは失敗だったと気づいたのよ」
父の言葉を引き継いだ母は申し訳なさそうに私を見つめていた。
辛い、しんどいという感情を表に出していたつもりはなかったがどうやら自分の家だと気が抜けていたらしい。
「相手は王族だ。我が家が歴史ある公爵家といってもこちらから婚約を解消するのは難しかった」
「なにより陛下と王妃様が貴女を気に入っていたからね。手放したがらなかったの」
「そうだったのですね…」
初めて聞いた両親の本音に泣きそうになった。
ぎゅっと握られた左手の方を見れば弟の優しい笑顔がある。
「みんな、ソフィ姉様には笑っていてほしかったんだよ」
悲しいわけでもないのに涙が溢れてくる。
いつ、いかなる時も仮面を被り続けていないといけないと教えられていたのに。家族の温かさに触れて久しぶりに私は声を出して泣いた。泣いている私の背中を摩ってくれたのは弟と反対側に座り直した母だ。
「辛かったのね」
「は、いっ…」
ずっと辛い気持ちを我慢していた。
アーサーの婚約者になり始まった厳しい王太子妃教育。
ダンスを完璧に踊れるようにする為に足を怪我し続けても踊り、国内の政治や経済、国際情勢を頭に叩き込まれ、王妃は外交の役割を担う為に友好国の言葉やマナーまで完璧にしなくてはならなかった。どんなに疲れていても休む事は許されず時には手を上げられる事もあって。幼かった私がそれらに耐えられるはずがなかった。次第に笑顔が少なくなっていったのはそのせいだろう。
それでも我慢して教育を受け続けていたのはアーサーを支えたかったわけじゃない。親からの期待に応えたかったからだ。
「もう頑張らなくて良い。大丈夫だ」
「はい…」
「これからはまた昔のような笑顔を見せておくれ」
泣き終えたのにまた泣きそうになるのをぐっと堪え父を見つめると変わらず優しい笑顔を見せてくれていた。
「話を戻して申し訳ないが一体なにがあって婚約破棄になったのだ?」
私が落ち着いた頃、父が尋ねづらそうに声をかけてきた。
泣いてすっきりした私としては気を遣わなくてもいいと思うが家族にはそう見えないのだろう。
そもそも泣く前に話すべき内容だったと口を開いた。
「どうやら王太子殿下が真実の愛を見つけたそうです」
私の答えに家族全員が絶句した。
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