喜ぶ家族
屋敷に戻ると出迎えてくれたのは四歳下の弟ジョセフだった。
「ソフィ姉様、おかえりなさい。早かったね?」
「ただいま、ジョセフ。色々あって早く帰ってきたのよ」
「大丈夫?もしかして誰かに意地悪された?」
「平気よ」
幼い頃は私の後ろをついて回っては怪我をしかけては心配させてたジョセフは成長するにつれて私の事を心配するようになっていった。
心優しい弟を持つのは嬉しいが心配されてばかりだと姉としては情けなくなる一方だ。
「そっか。困った事があったら言ってね!僕は姉様の味方だから」
「ありがとう、ジョセフ。ところでお父様達は戻ってきているかしら?」
父と母はとある侯爵家のお茶会に招待されている。
夕方前には戻ると言っていたのだが、まだ帰ってきていないのだろうか。
婚約破棄の事を早く伝えたいのだけど。
「さっき戻ってきてたよ。二人とも父様の執務室にいると思うけど、どうかしたの?」
「大切なお話があるからよ。ジョセフも一緒に来てくれるかしら?」
「大切なお話?うん、分かった」
「私は準備してから向かうわ」
「じゃあ、僕は先に行って父様達に伝えておくね」
「ありがとう」
自室に戻って無駄に重たいドレスを脱いで軽いワンピースに着替える。綺麗に纏め上げていた長い髪を下ろし軽く梳かして貰ってから父達の待つ執務室に向かった。
部屋に入ると父と母が並んで座っており、向かい側にはジョセフがいた。空いているジョセフの隣に座って両親と向き合う。
「おかえり、ソフィ」
「おかえりなさい」
「ただいま戻りました、お父様、お母様」
お茶会に行っており何も知らないであろう二人はいつもの笑顔で私を出迎えてくれた。
どこから話そうか迷っていると落ち着かない様子のジョセフに話しかけられる。
「ソフィ姉様、大切な話ってなに?」
「今から話すわ」
そっとジョセフの頭を撫でてから改めてお父様達の顔を見る。
「先ほどアーサー様に婚約破棄を言い渡されました」
「は?」
「え?」
唐突な発言に目の前の二人はぽかんと大きく口を開き絶句する。
私も聞かされた時は危うくその姿をアーサーに見せてしまうところだった。家族のみの気の緩んだ空間ではそうなってしまうのは当たり前の事だと思う。
「今、婚約破棄と言ったか?」
「はい、お父様」
「そうか」
項垂れた様子の父と今も口を大きく開きっぱなしの母を見て期待を裏切ったと申し訳なくなる。
オズワルデスタ公爵家は数代に一度王妃を輩出している名門の家系だ。自分達の娘が王妃になれると知った日には父も母も大変嬉しそうにしていた。
落ち込ませてしまったのだろう。
そう気分を落とした時、明るい声が響いた。
「やったぁ!」
声の主は隣に座る弟ジョセフだった。驚いて隣を見ると嬉しそうに笑う弟に困惑する。
今は喜ぶべき場面じゃないのだけど。
「姉様、これであの王子様と結婚しなくて済むんだよね?」
「え、えぇ…。そうなるわね」
「良かったぁ!」
安心したように笑う弟に戸惑いを隠し切れず助けを求めるように父と母を見ると満面の笑みを浮かべて私を見ていた。
一体、何故そのような表情に。
「お父様?お母様?」
「すまない。嬉しくて頬が緩んでしまってね」
口と頬を覆い隠すように手を当てる父に私の戸惑いは加速する一方。母を見ればいつの間にか取り出されていた扇子で顔を隠していたが、その目元は緩められていた。
喜びっぱなしのジョセフは私の左手を握ると縦に大きく振り回していた。
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