ケーキ好きの変人
ケーキを食べているウィルは本当に幸せそうだった。あんなに美味しそうに食べる人は初めて見たかもしれないくらい。
そう思うくらい嬉しそうに食べていたのだ。
ケーキのおかげで彼は上機嫌、鼻歌まで歌い始めている。
「あのケーキ、美味しかったな」
「それ何回目よ…」
「分からない。何回目だ?」
「少なくとも十回以上は聞いているわ」
正確に言うなら十八回だがあえて言わないようにした。回数を聞いた瞬間、苦笑するウィルに肩を竦めて返す。
「それはすまない」
「ウィルが幸せそうだもの。別に良いわ」
人が幸せそうにしているのは好きだから。それに領民たちのおかげでその笑顔が引き出せたと思ったら喜ばしい事だ。
アーサーが幸せそうにしているのを想像するのは少々腹立たしいけど。
そう思っているとウィルから声をかけられる。
「そんなにだらしない顔をしているか?」
「かなり緩みきっているわね」
「嘘だろ。最悪だ…」
緩みっぱなしの頬、爛々とした瞳、目尻だって下がっている。かなりだらしない表情ではあるがウィルは美丈夫だ。
格好良い人はどんな表情でも格好良い。
おかげで女性からの視線が痛いのだ。
「気にする事ないわ。さっ、次に行きましょう。次はどのお店を見たいの?」
「この店だ」
そう言って地図に指を置くウィル。
確認すると呆れた顔になるのも当然だ。
「あの、ケーキはさっき食べたはずよね?」
本気なの?という言葉は飲み込んだ。
彼が指を差したのは先ほど入ったお店とは別のケーキ屋だった。それだけじゃない。よく見れば地図に記された印の大半がお菓子の専門店だ。ケーキ好きと言っても程があるだろう。
「食べ比べは基本じゃないのか?」
「時と場合によるわ」
一口大のケーキを食べ比べするならまだ分かるけど一切れはないと思う。
「付き合ってもらうのは悪いな…」
「ううん、付き合うわよ」
「良いのか?」
「えぇ」
「助かるよ」
案内をすると言い出したのは私だ。
一度言葉にしてしまった以上、取り消すのは貴族としてどうかと思う。それに隣国からやって来た貴族様に嫌な気分をして帰られるのは公爵家の名に泥を塗る可能性がある。
ケーキは好きだし、食べられなくても紅茶だけ飲んでいれば問題ないだろう。
「ちなみに聞くけど何のケーキを食べる気なの?」
「食べ比べをする意味でもチョコレート一択だな」
「そ、そう…」
この人、かなり変な人だ。
苦笑いしそうになるのを必死に堪えながら彼の隣を歩き始める。
私達がケーキ屋巡りを終えたのはそれから三時間後だった。
しばらくケーキとチョコレートを見たくないと思ったのはウィルがチョコレートケーキを食べ続けたせいだろう。
【☆☆☆☆☆】で評価をして頂けると嬉しいです。




