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ナンダロネの冒険譚  作者: なんだろね


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3

「はぁ〜、暇だな〜」


 俺は暴れて布から脱出しようとしているイーストンを眺めながら暇を持て余していた。


「それにしても、この卵なんの卵なんだろうな」


 暴れているイーストンの下敷きになっていても、割れるどころか傷一つつかない黄金の卵を、俺はまじまじと見つめていた。


 魔物についてはあらかた、冒険者ギルドにあった図鑑でロネが教えてくれたので覚えている。だが他の生物に関しては全く触れていないのでこの卵が何の卵かまるでわからない。ただ、見事な黄金に輝いているため、余程目立っても他の生物に襲われないほど強い生物か、他の生物が立ち寄れないほど過酷な環境で生きている生物であると推測できた。


「これ売るのかな。どうするのかな……」


 俺個人としては親の個体に恨まれるのが怖いため、売るのが安定していいと思うが、うちの決定権はロネにある。ロネの選択を尊重しよう。


「おーい、ナンダ! 生きてる〜?」


 そうこうしているうちにロネがお貴族様を連れてやってきた。


「おー、早かったね。全然時間経ってないよ」

「そりゃあ、ナンダが死ぬかと思って急いだんでね」

「うわ〜ん! 急いでくれたことを喜ぶべきか、死ぬと思われていたことに信頼されていなかったと悲しむべきか、どっちがいいんだ!」

「うそうそ、冗談だよ〜」


 俺がわざとらしく俯いて落ち込んでいるふりをすると、ロネはケラケラと笑った。


 そのやり取りを尻目にお貴族様——ウォードはイーストンをまじまじと見ていた。


「へえ、こんな魔物がいるんだな〜」

「俺も見るのは初めてなんだよね」

「こいつに引っ付いている鉱石やらが、虹色の鉱石に見えたってことか?」

「うん、多分だけどその仮説であってるっぽい。奥も探索したけど行き止まりだったからね」

「はぁ……もっとこう、一つの鉱物に虹色が含まれていると思ったのにな〜」

「そんなもの存在するわけないじゃん」

「じゃあ、あの魔物の下敷きになってる金の卵は何だよ」

「あれは俺もよくわからん。なんかあの魔物が大事にしてたから奪った」

「うわ、やってることえげつな。それで誘き寄せたわけか」

「そう、よくわかったね」

「まぁ、この光景を見たらわかるよ」


 ウォードは呆れたように言いながら、布によって黄金の卵の上で暴れているイーストンを見た。


「まぁ、これで依頼完了ってことでいい?」

「そうだな、虹色の鉱石の件はこれで依頼完了だ。後でギルドの口座に振り込んどく二人一緒でいいか?」

「うん、いいよ〜」

「——それでなんだか、この卵も俺に売ってくれないか?」

「あ〜、俺たちもどうするかまだ決めてないんだよね。俺は売ってもいいけどウチの方針はロネが決めてるから」


 俺がそう告げると、改めてロネに向かってウォードが交渉しに行った。


「私はこの卵、少し危険だと思うけどそれでもいいの?」

「ああ、この卵の親の個体に恨まれるってことだろ。その辺は、俺は次男だから死んでも問題ない」

「そういうことを言っているわけじゃないんだけど……。どうしてそんなにこの卵を必要とするの? 別に生き物なんて育てる柄じゃないでしょ」


 ウォードは少し考え込んで、ゆっくり口を開いた。


「……誰にも言うなよ。この卵は鳳凰の卵かもしれないんだ」

「鳳凰?」

「俺も見たことはないんだが、その羽を薬に使うと、どんな病でも治す薬になるらしい」

「誰か病気の人でもいるの?」

「俺の母親だ。最近では外に出ることもなくなってしまった。昔は外でガーデニングするのが趣味だったのにな」


 ウォードが少し寂しげな表情にロネは視線を落とした。


「医者には見せたの?」

「ああ、俺の家は一応貴族だからな、だが現在の医療技術では完治するのは難しいらしい」

「なるほどね……そういうことなら、私たちも売る以外ほとんど使い道ないし」

「ありがたい! いくらで売ってくれる?」

「タダでいいよ、その代わり貸しにしとくわ」

「そりゃあ、高くつきそうだな」

「じゃあ、やめる?」

「いや、ありがたく貰っとくわ」

「でもそのどんな病気を治せるのが本当だったとしても、卵からいつ孵化するかわかんなくない?」


 二人の取り引きが一段落したのを見計らって、疑問に思ったことを横から投じてみた。


「ああ、だが、治せる確率がゼロよりはマシだろ」

「そうだな、早く孵化するといいな」

「ああ」

「だが、どうやって卵を取り出す?」


 黄金の卵の方を向くと、その上でイーストンが暴れているのが目に入った。


「この魔物は倒しちまっていいぞ」


 俺がイーストンを捕獲したままどうやって黄金の卵を回収するか考えていると、ウォードが事も無げに言い放った。


「いいのか? 珍しくない魔物らしいけど、普通は好物が偏ってるから一色か二色が普通で、虹色の鉱石のように見えるこいつは珍しいと思うんだが」

「ああ、問題ない、虹色の鉱石が欲しかったのはその鉱石があれば何でも治る薬が作れると教えてもらったからだ。別に観賞用の鉱石が欲しかったわけじゃない」

「ガセネタだと思って、私たちに依頼したんじゃないの〜?」

「鳳凰の羽も虹色の鉱石も両方とも嘘だと思ってるさ。それに、面白いだけで大金を使えるほど酔狂じゃない。期待半分、面白さ半分だ」

「だいぶ酔狂だと思うがな」

「じゃあ、魔物は本当に倒すけどいい?」

「問題ない」


 ウォードがそう言い切るとロネは心鏡の鎌を作り出し一閃した。イーストンの首が真っ二つに切り裂かれ、粘り気を無くした素体から、付着していた鉱石がバラバラと地面に散らばっていった。


「この鉱石はどうする?」

「そりゃあ、依頼主様のものですよ」

「売れそうなものは俺のコネで売るから、集めといてくれ」

「オッケー、じゃあ集めとくね〜」


 俺は散らばっていた鉱石を心鏡の布で包み込んだ。


「悪いんだがその鉱石が全部入るような袋を持ってなくてな。城壁まで運んでくれないか?」

「もちろん、そのくらいならお安い御用だよ〜」


 俺とウォードが鉱石をどうするか決めている間、ロネは全く傷ついていない黄金の卵を触っていた。


「本当に頑丈ね。もしかしたら本当に鳳凰ってやつかもしれないわね」

「ウォードは生物や薬学に詳しい知り合いはいるのか?」

「鳳凰の羽や虹色の鉱石があれば何でも治せる薬を作れる、と教えてくれた人がいる。その人に聞いてみるよ」

「一応言っとくけど、話半分で聞いとけよ」


 そんな都合が良いものがあるとは考えにくいので俺は忠告しておいた。


「ああ。だが、何もしないでいるよりは良いかと思ってな」

「悪いことは言わない、そのくらいの気持ちでやっとけ」

「肝に銘じとくよ」


 俺はそう言い残して洞窟の近くに繋いでおいた馬を迎えに行った。




 ラビュータスに帰る頃には、空が夕焼け色に染まっていた。俺たちは門番に身分証明書を見せ、城壁内の騎士団長室に入っていた。


「ここに鉱石を置いといてくれ、後で片付けとく」


 ウォードが指さした場所にどっさりと鉱石を降ろした。


「報酬の話だが、虹色の鉱石の捜索と確保で金貨一枚だ。確認してくれ」


 ウォードが机の上にドサっと銀貨百枚を置いた。


 俺とロネが分配できるよう、わざわざ両替して気を遣ってくれたのだろう。ありがたい。これで俺は宿の飯(一回銅貨十枚)が五百回は食える。


「確認した。じゃあな、またなんかあったら言ってくれ」

「ええ、ウォード様は私たちのお得意様だからね」

「はーっはっは! じゃあ、様付けで呼ばれるのはむず痒いからやめてくれよ」

「それは嫌よ。間違えて公衆の面前で呼び捨てにしたら、誰に恨まれるかわかったもんじゃないからね〜 だから、間違えても被害が少ない様付けがいいのよ」

「そうか、強制はしないよ。今回は改めて、個人の依頼を達成してくれてありがとう。俺にできることなら何でも頼ってくれ」

「了解、頼りにしてるわ」

「バイバーイ」


 俺たちはそう言い残して、騎士団長室を出て行った。


「じゃあ、宿に戻るか〜」

「そうね〜 そうだ!明日は休みにしましょ」

「そうだね、俺も疲れたよ〜」

「じゃあ、また後で」

「うい〜」


 そう言って俺たちは各々泊まっている宿に向かって行った。ちなみに俺の宿は一泊銀貨一枚の庶民的な場所だが、ロネは風呂に入りたいからという理由で高級宿に泊まっており、一泊で銀貨五枚払っている。


 俺はロネと分かれた後、宿に戻って食堂の席に着いた。


「女将さん、定食一つお願い」

「はーい!」


 ここの女将さんは歳が若く、俺とあまり差がないらしい。両親が亡くなって一人でこの宿を切り盛りをしている。


 俺はこの宿の定食が大好物で、日替わりのこの食事が人生の楽しみと言っても過言ではない。今日のメニューはパンと肉たっぷりシチューに野菜、焼き魚だった。どれも俺たちが野営などで作る料理とは比べ物にならないくらい美味しかった。


「うまかった〜 ご馳走様でした〜」


 お腹いっぱいになった俺は、自分の部屋に戻り、ベッドの上でゴロゴロしていた。




 しばらくすると、ドアが軽快にノックされた。


「ロネだよ〜、開けて〜」

「うい〜」


 ベッドから起き上がり、ドアを開けた。


 ロネからふわっと甘い匂いがしており、頬がほんのり上気していた。一目で入浴後ということがわかった。


「ロネ先生からいい匂いがする〜」

「いいでしょ。高級宿の特権よ」


 ロネは入浴後だからか、いつもより機嫌が良い。多少セクハラじみたことを言っても、嬉しそうに高級宿のマウントを取ってくるだけだった。


 ロネが俺のベッドの端に腰掛けたので、俺たちはこれからの方針を相談し始めた。


「次の依頼はギルドの方の依頼にしましょうか」

「ギルドの依頼もいいんだけど、個人の依頼の方が手数料取られなくてたくさんお金もらえるからね〜 ロネはどっちの方がいいと思う〜?」

「私はそろそろギルドの依頼をこなさないと、ギルドライセンスが剥奪されちゃうから、ギルドの方を優先したいね」

「だいぶサボったね〜 薬草集めとか物運びとかすぐ終わっちゃうやつをやればいいのに〜」

「あれは報酬少ないじゃない。できればギルドの依頼でも割のいいのを受けたいじゃん」

「まぁね、それで、いつギルドの方に行くの?」

「うーん、明後日かな〜」

「おっけー、俺も暇だからついていくわ〜」

「お、荷物持ちとして頼んだよ〜」

「かしこまりましたであります」

「ふふ、頼りにしてるよ〜」




「そういえば、お金どのくらい貯まった?」

「私は今回ので目標の金貨十枚まで到達したよ」

「俺は今回ので金貨十五枚くらいまで行ったかな」

「そうか……そろそろ、こことはお別れかしらね」

「うん。なかなか居心地良かったね」


 俺たちはここを一年ほど滞在していた。これほど長い時間、同じ場所に滞在するのは旅を始めてから初めてのことで、いざ離れるとなると寂しさが込み上げてくる。


「まぁ、切り替えよっか。どこを目指す?」

「北方に行って王都を目指すか、南方に行ってヘルニネス聖国にいくか、それとも海を渡って別の大陸に行くか。ロネはどれがいい?」

「うーん、どうせなら王都を少し見に行きましょうか」

「了解。じゃあ、その方針で行くか〜」


 これからの方針が決まったため今日は解散となり、ロネを見送った俺は心地よい眠りについた。

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