あんたらは頭おかしいよ③
そうですか
兄がいるところには記憶にある。
父がいつも言う。
「牛乳屋の裏だ。そこがめじるしだ。わかるか?」
しかし、この親が言うには牛乳屋はもうなくなっているし、そこを目印にしようとしてもこの車のナビが牛乳屋を表してそこを指すわけがない。父のいうその場所は牛乳屋といわれる場所はもうシャッターも締め切られていて店舗も何もないところだということと、その空き店舗の上を貸しアパートとして利用しているということだけである。彼はもうそこにいる兄を見てもいない。もしかすればその場所は父が言うだけで、ただの幻想なのかもしれない。本当はもう兄は死んでいて、そこには兄外の誰かが住んでいて、父は彼に何かしらの教訓として今もなおその存在を知らしめたいだけのようにも思える。もう5年以上も彼は兄に会っていない。それなのに彼がなぜ兄が生きていると思えるのかといえば、父がそう話すからで、それ以外に何もない。――とすれば、もしかしてこれは父の記憶の中の嘘で、作り上げられた現実を彼がただうのみにしているだけのようにも思える。――兄は誰だっただろうか、実のところそのことすらも彼にはもうわからなくなっている。
出がけに息子が彼にこう言った。
「誰に会いに行くの?――」
「宏、お前のおじさんに会いに行くぞ――」
「オジサン?」
「そうだ。お父さんの兄さんだ」
彼はしかし心の中で言葉をざわつかせていた。兄はこの子にとってオジさんだろうか?
父は言っていた。
「あいつももうおしまいだな。――夏に居住場所の更新があって連絡を取ったんだ。お前のサインがいるからって――。そしたらメッセージの返事は〝こっちは体調がわりぃんだ‼ 勝手にすりゃあいいだろうが‼ だってさ。――しようがないからとにかく送った書類は返っては来たけど、字なんか震えちゃって、読むのもむつかしいくらいになってたよ――」
彼はこの快晴の日の暮れていく夕陽を見ながら、自分が何者なのかを見失ったように思えた。
そうですね




