あんたらは頭がおかしい
ご無沙汰ですが。
だいぶん日を空けました。
「お前ら頭がおかしいよ」
興奮して目が血走った彼女を見ると“お前もどこかおかしくなっているぞ”彼は思った。
年末から父が上京した際、彼は息子を連れて、彼の兄のもとを訪れることにしていた。なかなか予定が付かず、正月を少し過ごした。前日の晩まで、彼ら一家は父を頼りにして、おせちなんかを食べてだらだらと過ごしていた。というのも、兄のもとへ行くことがこの父親のひとつの必要な行事でもあったし、しかし彼にとってはどうでもいいことに肩入れする行事でもあって、ただの負担に過ぎない出来事であったからに他ならない。要するにこの行事はこの父親にできたひとつの隙であり、彼に対する借りでもある。
その日、天候はすこぶる快晴だった。昼過ぎ、彼の娘と嫁は家に残して、車で出立するとしばらくして彼は飲物を欲した。途中のコンビニによるつもりでもあったから、別段何か考えあぐねることもなく、そのコンビニの駐車場で車の足を止めた。
「あんたも何か飲むか」と彼は父に尋ねた。父は相変わらず不器用な形で“ああ”といっただけだった。
もうすぐ4歳にもなる彼の息子は「僕いらない」とはっきり答えた。
「そうか、でも途中でほしくなるかもしれないからな」
彼がそう返しても子供には何の反応もなかったが、言葉通りに彼は考えていた。
車から出ると、快晴の空から降り注ぐ日の光がやけに彼の横顔を刺した。目を細めながら少しの動揺を彼は覚えていた。それは彼という人物に時々ある不思議な感覚といってもいいかもしれないことだ。なにかしら彼自身、わたしはいつもどこか間違っていて、どうしようもない過ちを犯しているのではないかという妄想に憑りつかれ、自分が今何をしているのかわからなくなってしまうのである。
車に戻るとその不安は的中した。
――住所はわかるか?
彼の質問に父親は何かを拒むような態度をとった。
わからずに出たのか? そう尋ねると、と父親は前日から食事をふるまったり、子供たちが遊びに来たりしてして、全然余裕がなかったじゃないか――とよくわからないことを言い始めた。携帯電話も忘れてきたから、居所を示す情報がひとつもないのだという。彼は兄とはもう数年会っていない。兄のことはもう兄とも思っていなかったわけであるし、父親が兄のもとに行きたいというのであるから、彼は別段兄の居所など知っておく必要もなった。
――時間になったからといってすぐに出立したのはお前だぞ。
だから何だというのだろう。
――今日ナシだ。ナシにしよう。
――あしたなんかもういけないぞ。
――そしたら今年はもういい。ナシにするぞ。
そうしたらここで終わりにしてもいいかもしれない。今年でこの行事を終わらせた方がよかったのかもしれないではないか、とも彼は思った。しかしそうさせない理由が彼のどこかで脳裏をかすめた。これは彼にとって家族という関係を証明する唯一の行事ではないだろうか。この行事を遂行しなければ、彼の家族はどこにもなくなってしまうのではないかという焦燥感が、彼をこのどうでもいいはずの行事に積極的に作用させているのは間違いのないことだった。
「とりあえず、家に戻ろう」
彼がそう言うと同時に、子供が泣くように喚いた。
「大丈夫だから――」
と彼は言いながら、車を自宅へと戻らせた。
続きを書く気になるかはわかりません。




