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彼女は渡さない!婚約破棄寸前の悪役令嬢は男化した聖女に溺愛される  作者: *ほたる*


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3/7

3話 父上、それ嫉妬です

『ほら!!

 言ったじゃないですか!!』


 セイルの声が、鏡の向こうで響いた。

 シェルドは眉を寄せる。


 先程まで、

 今日の出来事を説明していたところだった。


 聖女の男化。

 セフィラを抱きしめていたこと。


 そして――

 手の甲へ落とされた口づけ。


『父上、完全に取られかけてるじゃないですか!!』


「取られるも何も、相手は聖女だろう」


『でも今は男の姿なんですよね!?』


 セイルが、涙の滲んだ碧の瞳でシェルドを見上げる。


 ……あの瞳の色を見ると、なぜか落ち着かない。


『父上、嫉妬してるならちゃんと行動に移してください!!』


「……嫉妬? 何を言っている」


『もやっとしたんでしょう!?

 それ、嫉妬じゃないですか!』


『母上のこと、愛してるんですよね?!』


 シェルドの眉間の皺が、深くなる。


「……婚約者だが、愛してはいない」


 セイルが、呆然と固まった。


『な、何言ってんですか!?』


「愛とは、ロメオとジェリエットのような劇的なものだろう。

 セフィラに、そんな感情は持っていない」


 セイルは、言葉を失った。

 握った拳が、小さく震えている。


『……ほ、本気で言ってるんですか、父上』


 真っ青な顔で呟く。


『なんてことだ……

 昔の父上が、ここまでポンコツだったなんて……』


「おい。ポンコツとはなんだ?」


 シェルドの目が細まる。

 次の瞬間、セイルの身体が淡く光り始めた。


『え!?また?毎回早すぎる!!』


 セイルが慌てたように鏡へしがみつく。


『父上!

 とにかく、しっかり母上を捕まえておいてください!!』


「婚約者だからな。当然だろう」


『もうそれでいいです!!

 本当にお願いしますよ!!』


 それだけ叫ぶと、セイルの姿はふっと消えた。

 静寂が戻る。


 シェルドは、そっと息を吐いた。


(……本当に、嫉妬なのか?)


 朝の出来事が脳裏に浮かぶ。

 胸の奥が、またざわついた。



 翌日の昼。


 中庭の木陰で、

 セフィラは目を瞬かせていた。


「……これを、私に?」


「はい。朝、作ったんです」


 低い声が落ちる。


 木目の入った弁当箱だった。

 蓋を開ける。


 中には丸いおむすびと、小さく切られた料理が丁寧に並んでいた。


 焼きソーセージに、甘辛く煮た根菜。

 その中に、鮮やかな黄色が見える。


「……この黄色いのは?」


「卵焼きです」


 アレスが笑う。


「うちは子爵家ですけど、自分で家事をすることも多かったので」


「昔作ってたのを、ちょっと思い出したんです。

 食べてみてください」


 そっと箸を伸ばす。


 一口。

 ふわりと甘い卵の味が広がった。


「……美味しい」


 思わず、声が漏れる。


「……よかった」


 アレスが、柔らかく笑った。

 金色の髪が、風に揺れる。


「……っ」


 見惚れていたことに気づき、慌てて弁当へ視線を戻した。


 二人とも、もう言葉はなかった。

 ただ静かに、食べ進める。


 風が、木々を揺らす。

 その沈黙は、不思議と心地良かった。


 ふいに、

 芝を踏む足音が近づいてくる。


 セフィラは、思わず顔を上げた。


「……シェルド様?」


 銀髪のシェルドが、こちらへ歩いてくる。

 紫の瞳が、まっすぐ二人を捉えていた。


 なぜか、その視線に胸がざわつく。


 シェルドは何も言わないまま、セフィラの隣へ腰を下ろした。


「……っ」


 セフィラが目を見開く。

 シェルドが、自分からそばへ来ることなど滅多にない。

 まして、昼食の時間に。


「……貴方の分はありませんよ」


 アレスが、静かな声で言った。

 だが、シェルドは表情一つ変えない。


「元から、貰うつもりはない」


 空気が、ぴりりと冷える。


「え、あの……」


 セフィラが困ったように視線を彷徨わせる。


「シェルド様、お昼は……?」


「食べた」


「……では、なぜこちらに?」


 一瞬、シェルドが言葉を詰まらせる。

 その沈黙を見て、アレスがふっと笑った。


「セフィー様が気になって来たんじゃないですか?」


「違う」


 即座に返る。


「たまたま近くを歩いていたら見えただけだ。

 婚約者が、他の男と二人でいたら問題だろう」


「……今更ですか」


 アレスが、呆れたように息を吐く。

 シェルドの眉が、ぴくりと動いた。


「……大体、お前。

 いつまで男のままでいるつもりだ?」


「聖女の仕事はどうした。

 義務を怠っていいのか?」


 アレスの表情から、笑みが消える。

 聖女の祈りは、国を覆う結界を維持するために必要不可欠だ。


「聖魔法は、男だとまともに扱えないはずだ」


 アレスはピンク色の瞳をわずかに伏せた。


「……すぐには影響は出ません。

 少なくとも、今日明日は」


 セフィラが、不安そうにアレスを見た。


「アレス様……

 本当に、大丈夫なのですか?」


「セフィ。

 これはアリスだ。男じゃない」


 紫の瞳が、まっすぐアレスを捉えていた。


「アリスで構わない」


 セフィラが、目を見開く。


 “セフィ”と、まるで当然のように言われたことに、胸が落ち着かなかった。

 頬が、ほんのり熱くなる。


 アレスが、じとりとした目を向けた。


「……私の真似、しないでください」


「何の話だ」


「“セフィー様”って呼んでいいのは、私だけです」


 不満そうな声だった。

 シェルドの眉が寄る。


「私の婚約者だ。何の問題がある?」


 淡々とした声。

 だが、その空気は妙に刺々しい。


 アレスの表情が、わずかに変わる。


(……おかしい。

 ゲームだと、この男……

 こんなにセフィー様へ執着してなかったはずなのに)


 その時だった。


 学園中へ、予鈴が響く。

 セフィラが、はっと顔を上げた。


「……もう、こんな時間」


 アレスが息を吐く。


「楽しい時間って、すぐ終わりますね」


 どこか残念そうな声だった。

 セフィラは、そっと弁当箱を閉じる。


「アレス様。

 お弁当、ありがとうございました。

 とても美味しかったです」


 碧の瞳が、まっすぐ向けられた。


 一瞬、アレスが目を見開く。

 それから、柔らかく笑った。


「……よかった。

 また作ってきます。

 一緒に食べましょう、セフィー様」


 隣で、シェルドが目を細める。

 だが、何も言わない。


 セフィラは、そんな二人を見比べながら、どこか困ったように瞬きをするのだった。



 ――少し離れた場所で。

 レオルが、三人を睨みつけていた。


 その視線は、まだ敵意を失っていない。

お読みいただきありがとうございました✨


このお話はすでに最後まで執筆済みです。

これから毎日更新で、最終話まで一気に駆け抜けます!


セフィラたちを温かく見守っていただけると嬉しいです☘️

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