72/78
「催促」
友人が中学三年生の夏休み、夜中に一人で受験勉強をしていたときのこと。
ふと、静かな部屋の中に「チーン……」と仏壇のりんを鳴らしたような澄んだ音が響いた。
直後、どこからともなく線香の甘い匂いが漂ってきたという。
「なんだろう……?」
不思議に思ってふと柱時計に目をやると、針はすでに午前一時を回っていた。
日付は、八月十二日に変わったばかりだった。
翌朝、朝食の席で友人は父親に尋ねた。
「お父さん、昨日お墓掃除行った?」
「あッ! しまった、すっかり忘れてた……!」
頭を抱える父親に、友人が「やっぱりね」と呟くと、父親は不思議そうに顔を上げた。
「なんで分かったんだ?」
「昨日の夜中、たぶんおばあちゃんから催促があったよ」
昨夜の「音」と「匂い」の話をすると、父親は「なんだそれ」と笑っていたが、あれは絶対に掃除を忘れた父親への催促だったんだと思う、と友人は語っていた。




