67/79
「嘘だー」
近所に住む小学生の子供に、突然声をかけられた。
「この間の温泉、楽しかった?」
「えっ!? ……いつの話?」
「先月の最後の土曜日だよ」
そう言われて首をかしげた。
その日は朝から仕事で、一日中職場から離れられなかったからだ。
「その日は温泉に行ってないよ。ずっとお仕事だったもん」
そう答えると、その子は「えー! 嘘だー!」と声を上げた。
「だって、〇〇温泉の売店の前にいたじゃん! 私が手を振ったら、笑顔で手を振りかえしてくれたよ?」
相手は冗談を言っている様子もなく、完全に自分を見かけたと信じ切っている。
こちらがどれだけ「仕事だったから絶対に自分じゃない」と説明しても、その子は「絶対〇〇さんだった」と言い張って譲らなかった。
見間違いだと思いたいが、手を振ったら「笑顔で手を振り返してきた」という部分が、どうしても頭から離れない。




