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隙間奇談 ~日常の「すきま」に潜む、奇妙な短編集~  作者: 空気人形


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「右目」

Aさんが新居へ引っ越して、まだ数日しか経っていないときのこと。

その日は引越しの疲れもあり、有給休暇をとって自宅でのんびりと過ごしていた。


平日の午前十一時頃、不意にピンポーンとドアホンが鳴った。


引っ越したばかりで友人にも住所を教えておらず、郵便や宅配便の予定もない。首を傾げながら、誰だろうとモニターを覗き込んだ。


そこには、画面一面に巨大な『人間の右目』が映し出されていた。


カメラレンズの至近距離に顔をくっつけているのだろうか。

だが広角レンズのはずなのに、顔の輪郭も鼻も映らず、ただ歪んだ右目だけが画面いっぱいに広がってキョロキョロしている。


(……絶対にヤバい奴だ)

あまりの異様さと恐怖に、Aさんは息を殺して居留守を決め込んだ。


変な宗教か不審者だろうか。一人でいるのが怖くなり、その日の夜、彼氏に家に来てもらった。

事情を聞いた彼氏は「気味が悪いな」と心配し、その日はそのまま泊まってくれたという。


「もし続くようなら、大変だけどまた引っ越した方がいい。なんならしばらくうちに来る?」


そう提案されたが、Aさんはひとまず様子を見ることにした。

幸いなことに、それきりカメラを覗き込まれることは二度となかったという。


あのとき、広角レンズのモニターに「目だけ」を映じさせていたものは、一体何だったのだろうか。

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