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「手を振る子供」
山登りが趣味のHさんが、彼女と一緒に登山をしていたときのこと。
尾根を歩いていると、彼女が「ねぇ、見て」と山の下の方を指差した。
視線の先を辿ると、遥か下の道から、こちらに向かって必死に手を振っている小さな子供の姿が見える。
「かわいいねー」
彼女は無邪気に手を振り返していたが、Hさんはふと奇妙な感覚を覚えた。
——下の道から、この登山道にいる自分たちの姿が見えるのだろうか?
下山後、登山口で靴を履き替え、車を走らせて麓の町へ向かう途中、昼間子供が立っていた場所の近くを通りかかった。
車を止め、車内から山を見上げてみる。
木々がうっそうと生い茂っており、登山道はおろか山肌すらほとんど見えない。
それに、ここは麓の街から車で10分以上かかる山道の途中だ。
あんな小さな子供が、一人でどうやってここまで来たというのだろう。
Hさんはそれ以上深く考えないようにし、アクセルを踏み込んで帰路についた。




