「下山途中」
大学生の頃の年末、実家に帰省して友人たちと集まっていたときのこと。
免許を取りたての友人が、「岐阜の山奥にいい露天風呂がある。そこで年越ししない?」と言い出し、みんなで出かけることになった。
無事に露天風呂で年を越し、初詣に向かおうと深夜の山道を下っていたときだった。
ヘッドライトの光の先、山道を一人で下っていく女性の後姿が見えた。
まだ近くの民家まではかなりの距離がある。
一度はそのまま通り過ぎたものの、こんな雪の夜道に一人で歩いているのがどうしても気になり、誰かが声をかけた。
「戻って、あの人乗せてあげない?」
「そうだね、こんなとこ一人じゃ危ないし」
そう話し合い、雪道で慎重にUターンして先ほどの場所まで戻った。
だが、さっきまで歩いていたはずの女性の姿はどこにもなかった。
車を止め、あたりを見回してみる。
ふもとまでの一本道。逃げ込むような横道も陰もない。周囲は一面の新雪だったが、女性が歩いていたはずの場所には、人間の足跡どころか何かが通った痕跡すら残していなかった。
「……狸にでも化かされたかな」
誰ともなくそう苦笑いし合いながら、私たちは逃げるように初詣へと向かった。
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