「砂浜の暗闇」
友人のNくんは海のすぐ近くで育ち、小学生の夏休みには毎年、子ども会主催のキャンプに参加していた。
ある年のこと。昼間は釣りやバーベキューを楽しみ、夜の星空観察も終えて各自のテントへ入った。
だが、子どもたちが素直に寝るはずもない。テントの中では夜遅くまで、ひそひそとテンション高く騒ぎ合っていた。
しばらくすると、同じテントのひとりが「トイレ行ってくる」と立ち上がり、もうひとりも「俺も行くー」と連れ立って外へ出て行った。
残されたNくんたちが待っていると、少し離れたところから――
「うわぁぁぁっ!」
と、夜の海に響き渡るような絶叫が聞こえてきた。
直後、「うるさいぞ! どうしたんだ!」という指導員の大人の怒鳴り声が聞こえた。
怒られると思ったNくんたちは、慌ててテントの明かりを消し、息を潜めた。
(ふたりとも、めちゃくちゃ怒られてるな……)
そう思っていると、外から大人の「誰もテントから出てくるんじゃないぞ!」という、今まで聞いたこともない真迫した大声が響いた。
ただごとではない雰囲気に怯えていると、やがて遠くから「ピーポー、ピーポー」とパトカーのサイレンが近づいてきた。
一体何が起きているのか。混乱していると、大人たちから「全員、荷物を持って出てきなさい」と指示が出された。そのまま保護者が呼び出され、キャンプは即座に中止となってしまった。
事の真相をトイレに行ったふたりに尋ねてみると、顔を青くしてこう語ったという。
トイレへ向かう途中、砂浜の脇にある松林を通った際、暗闇の中で「ドンッ」と何かに強くぶつかった。
「なんだ?」と思って顔を上げた瞬間、目の前に広がっていたのは――松の枝から伸びたロープと、そこにぶら下がる人物の姿だった。
叫び声を上げたあと、大人たちが飛んできて警察が呼ばれ、ふたりは現場で大変な目に遭っていたのだ。
話を聞いたNくんは、あのとき野次馬根性で見に行かなくて本当に良かったと心底安堵した。と同時に、自分たちはその事故物件のような場所の目と鼻の先で、無邪気にキャンプを楽しんでいたのかと想像して、恐怖が押し寄せてきたという。
その後、何事もなかったかのように翌年からもキャンプは開催され続けた。
「いまの時代なら絶対中止になるか場所が変わるよね」とNくんは苦笑する。
当時は大人たちの間でも、その件については「絶対に触れてはいけない暗黙の了解」のような空気が漂っていたそうだ。
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