「鏡の中の人」
後輩のDさんが中学生の頃、放課後の図書室で本を読んでいたときの話。
ふと顔を上げると、向かいの本棚と本棚のすき間に、姿見(鏡)があることに気づいた。
鏡には、机に向かってじっと本を読んでいる生徒の「後ろ姿」が映っている。
「へえ、この角度からでも他の席が見えるんだな」
Dさんは特に気に留めることもなく、手元の本に視線を戻した。
翌週、Dさんはまた図書室の同じ席に座っていた。
ふと思い出して顔を上げ、先週と同じ本棚のすき間に目をやる。
鏡には、ただ向かいの本棚の木目が映っているだけだった。
「……そもそも、図書室の本棚の間に鏡なんてあったっけ?」
「座る角度がズレてただけかもしれないし、立って読んでいる子だったのかもしれませんけど」
そう語るDさんだが、あの図書室の鏡が人が映っていた記憶は、後にも先にもその日しかないそうだ。
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