「古びたカーテン」
小学校で教員をしている友人から聞いた話。
宿泊学習の夜、彼は子供たちを早く寝かせるための創作怪談(脅かし半分)を話したという。
「この施設には赤く塗られた扉の棟があるだろ? 昔そこで事件があって、何度拭いても床や壁の血が消えなかったんだ。だから色を隠すために赤く塗られた。夜になると、その事件の霊が自分を害した人間を探して回るから、早く寝ないと部屋に入ってくるぞ」
子どもたちは「ウソだー!」と強がる子もいれば、本気で怖がって布団に潜り込む子もいて、その後の夜間プログラム(近くの神社への手形取り)も無事に終わり、イベントは大成功。子どもたちは就寝した。
翌朝、ひとりの男の子が青ざめた顔で友人に近寄ってきた。
「先生……昨日の話、本当なの?」
「そうだよ、ちゃんと眠れたかい?」
冗談めかして答えると、その子はぽつりと呟いた。
「やっぱり……僕、見ちゃったんだ」
話を聞くと、男の子は夜中にふと目を覚ましてしまったらしい。
部屋は2段ベッドが並ぶ構造で、彼は一番廊下側・上の段で寝ていた。ドアは縦長の細いガラスが嵌め込まれており、その上部には明かり取り用のガラス窓があるタイプだ。
ふとドアの細いガラスに目をやると、廊下に「白いぼろぼろのカーテン」のようなものが揺れている。
(あんな場所にカーテンなんてあったかな……?)
不思議に思って、上部のはめ込みガラスに視線を上げた瞬間、男の子は息を飲んだ。
天井に頭が届きそうなほどの女が、体を極限まで「くの字」に折り曲げ、上の窓から部屋の中をじっと覗き込んでいたのだ。髪はぼさぼさで、ドアの細いガラスで見えた「白いぼろぼろのカーテン」は、その女が着ている破れた白い服だった。
恐怖でパニックになりかけた男の子は、寝返りを打つフリをして、廊下とは反対側の「外の窓」へ向き直った。
――しかし、そこにも同じ女がいた。
窓のカーテンの隙間から、顔半分を覗かせてこちらを見つめていたという。
男の子は恐怖で固まり、必死に目を閉じて朝を待ったそうだ。
あまりの怯えように、友人は罪悪感を覚えて打ち明けた。
「ごめんね、昨日の話は先生が作ったウソなんだ。怖い話をしたから、そんな嫌な夢を見ちゃったんだね」
男の子は「夢だったんだ」と少し安心した様子で納得してくれた。
しかし、後日。
その施設を利用した別の学校の教員と話していた時のこと。相手の先生が苦笑いしながらこう言ってきたのだという。
「うちの児童がさ、『先生、夜中にドアの前でぼろい布をゆらゆらさせて脅かさないでよ』って怒ってきてね。夜巡回なんてしてないのに……一体何だったんだろうね?」
友人が創作したはずの怪談。
あの子が見たものは、本当にただの「夢」だったのだろうか。
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