「深夜の読経」
我が家の父親は、寝ている時が一番賑やかだ。
夢の中で誰かと戦っているのか、起きている時並みの大声で「そっち行ったらダメだろ!」と怒鳴り散らし、五十肩で上がらないはずの手で猛烈なチョップを放っては「あいたたた!」と自爆して悶絶する。
そんな父が、ある夜また何かゴソゴソと寝言を言っていた。
今夜は一体どんなハプニングかと聞き耳を立てに行くと、驚くほどハッキリとした口調で、スラスラと唱え始めたのだ。
「南無妙法蓮華経……南無妙法蓮華経……」
淀みのない完璧なお題目だった。
父は起きている時、一度もお経など唱えたことがない人間だ。しかもうちの宗派のものではない。
翌朝その話をすると、母は首をかしげながら呑気に言った。
「まあ。前世の記憶でも出てきたのかしらねぇ」
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