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隙間奇談 ~日常の「すきま」に潜む、奇妙な短編集~  作者: 空気人形


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「髪を洗う手」

いつものように帰宅し、食事を済ませ、いつものようにお風呂に入る。

湯船に浸かって疲れをとり、それから髪を洗うために頭に泡を立てた。


ゴシゴシと両手で頭をこすっていたが、ふと、違和感を覚えた。

何かがおかしい。


動きを止めてみる。けれど、頭頂部にはまだ、ゴシゴシと髪をこする感触が残っている。

私の右手と左手の間に、もう一本、別の手が紛れ込んで、私の頭を洗っているのだ。


悲鳴を上げる余裕すらなかった。後ろを振り返る勇気なんて、あるはずもない。

幸いにも正面の鏡は湯気で曇っていて、私の頭の上にある「それ」は見えずに済んでいる。


私は震える手でシャワーを掴み、一気に泡を洗い流した。

すると、その手はスッと離れ、気配は消えた。


それでもまだ、後ろを向くことはできない。冷静さを取り戻そうと、私は背を向けたままもう一度湯船の中に体を滑り込ませた。


少し気持ちは落ち着いたものの、どうしても後ろを向く踏ん切りはつかない。

結局、私はそのまま後ろ向きの姿勢のまま、お風呂場を後にした。


何の解決にもなっていない。けれど、当時の私には、それ以外の方法など思いつかなかったのだ。

『隙間奇談 ~日常の「すきま」に潜む、奇妙な短編集~』をお読みいただきありがとうございます!

毎日20時に更新しておりますので、明日もぜひお越しください。



また、別作品の中編ホラー『群青の嘘 ~港の廃屋と消えた少女~』も掲載中です。


『隙間奇談』とは一味違う、じっくり魅せるホラーとなっておりますので、こちらもあわせてお楽しみいただけたら幸いです!


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