「鼻歌」
旅行中、すっかり遅くなってしまった夕食の場所を探しながら、夜道を歩いていた。
画面に集中しながら歩いていると、前方からふと鼻歌が聞こえてきた。
すれ違う人が来たのだろうと思い、邪魔にならないよう歩道の端へ寄りながら、そのままスマホに目を落として歩き続けた。
――トンっ。
向かいから歩いてきた何かに、肩が軽くぶつかった。
流石に歩きスマホをしていたのはまずかったと思い、申し訳なさから急いで目を上げ、「あ、すみませ――」と頭を下げかけた。
だが、目の前には誰もいなかった。
誰もいるはずのない、無人の歩道が広がっているだけだった。
驚きで固まっている私の横を、楽しげな鼻歌だけが通り過ぎ、じわじわと後ろの方へ離れていった。
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