「狭すぎる」
大学の授業が終わり、サークルの部屋の扉を開けると、長椅子で後輩が寝ていた。
いつ授業に出ているのか分からないほど、常に部室に生息している「部室の主」みたいな奴だ。
「また寝てるのか……」と呆れつつ、俺は机を挟んだ対面の長椅子に腰掛けた。
すると、後輩がバッと跳ね起き、
「うつわ先輩か……! 良かったぁ……」
と、露骨に安堵の息を吐いた。なんだ急に、と理由を聞くと、俺が来る直前にこんなことが起きていたらしい。
いつものように授業をサボって部室に来たものの、誰もいない。誰か来るまで寝るか、と長椅子に横になった。
うとうとし始めた頃、急に身体が動かなくなった。体勢が悪かったのかと思ったが、どうやら本格的な金縛りらしい。
焦っていると、ガチャッとドアが開く音がして誰かが入ってきた。
(良かった、これで起こしてもらえる……!)と期待したものの、声も出ず身体はピクリとも動かない。
助けを待っていると、その「誰か」は、コツ、コツとゆっくり足音を響かせて歩き出した。
そして後輩が寝ている長椅子の後ろを通り抜け、部屋の反対側へ。さらにまた自分の方へ……と、ぐるぐると部室の中を周回し始めたのだ。
足音は次第に速くなっていく。
コツコツ、コツコツ、タッタッタッ……。
最終的には、猛スピードで部屋中を暴走するような足音に変わっていた。
(これ、絶対に人間じゃない……!)
パニックがピークに達したその時、再びガチャリとドアが開いた。
「二人目が来た!」と心臓が縮み上がった瞬間、部屋を走り回っていた気配がスッと消えた。
そして向かい側の長椅子に誰かが腰掛けた気配とともに金縛りが解け、目を開けたら私が座っていた――ということらしい。
「なかなか面白くて貴重な体験をしたね」
私が笑うと、後輩は「笑い事じゃないですよ!」と真顔で怒った。
だが、私は思わず呆れて言葉を付け加えずにはいられなかった。
「いや、そもそもあなたが寝てた長椅子の後ろって、壁との隙間が30センチもないよ。体を横にしてギリギリ通れるくらいの狭さなのに、そこを通り抜けた時点で人間じゃないって気づかない?」
「……あ、言われてみれば」
物理的なツッコミに首をかしげる当の本人は、その後も懲りることなく、今日も今日とて部室の長椅子で気持ちよさそうに居眠りを続けている。。
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