「挨拶の相手」
先生をしている友人から聞いた話。
宿泊学習の夜、イベントの「肝試し」でお化け役に扮し、山道を下ってくる生徒たちを脅かすため、途中の暗闇に隠れて待っていた時のことだ。
しばらく待つと、暗闇の先から「ザッ……ザッ……」と足音が近づいてきた。
「よし、来たな」と息を殺して身を潜めていると、音が聞こえてきたのは生徒たちが降りてくるはずの「上」からではなく、山を登ってくる「下」からだった。
暗闇の中から姿を現したのは、一人の見知らぬおばさんだった。懐中電灯すら持っていない。
驚いていると、おばさんは通り際、静かに「こんばんは」と声をかけてきた。友人も思わず「あ、こんばんは」と挨拶を返した。
それからしばらくして、今度こそ上から「きゃー!」「怖い!」と騒ぎながら生徒たちが降りてきた。
友人が物陰からバッと飛び出すと、生徒たちは「うわあぁっ!」と大悲鳴。「先生どこに隠れてたの!? 全然わからなかった!」と大盛り上がりだった。
無事に肝試しが終わり、友人は生徒たちに聞いてみた。
「うるさくするのは良いけれど、途中でおばさんとすれ違っただろ? ちゃんと挨拶したか?」
生徒たちは首をかしげた。
「え? おばさんなんて誰もいませんでしたよ」
そこは山へと続く一本道で、脇道などどこにもない。
灯り一つ持たず、生徒たちとすれ違うこともなく、あのおばさんは夜の山道のどこへ消えて行ったのだろうか。
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