第三話「本当に宇宙人」
「曲を作りに〜、さあ行くぞ!」
モチはそういいながら。
屋上階段のドアから部屋に戻ろうとした僕を、
逆方向に歩き出しながらに呼び止めた。
「えへへ、こっちだよ?」
太陽が指す。朝焼けの向こうへと、モチは消えてゆく。
僕もまた、モチが待つ、水たまりのない向こう側の世界へと踏み込む。
そうして、背景と現実世界の境界線を潜ると。
ふわんっ。
みたいな感覚がした。
今まで聞こえていたビル風の音が一瞬にして消えた。
無音じゃない。ここだけの空間の音になった。
後ろを見ると、背景が波のようにぼやけて見える。
どんなテクノロジーなんだこれは。
外からだと綺麗に何も無いのに…
そして目の前には…でっかいUFO、感服だ。
「うおおおお」
「ようこそ!マイホームへ!」
モチの最初のそのひと言で、皮肉が効いたパンチを喰らったような気がしたが、
それ以上に、目の前を占めるその大きな宇宙船。
UFOに目が釘図けになっていた。
当たり前じゃん。だって男の子だもん。
モチがサッと機体に触れると、それはあろうことか、
誰もが想像できるような形でハッチが開いた。
「ふぇ~信じられない」
「ふふ~ん。信じるも信じないもあなた次第」
「おおおおーーーーおおおぉ・・・おおぉ・・・・お?」
そうニヤリと呟きながらモチはUFOの中を開けて見せた。
そしてその誰もが憧れる宇宙船の中は・・・
謎に輝く空間、、見たこともない不思議なパネル!!宇宙の3Dホログラム!!!
実験室かのような無数のケーブル!!!!
人体実験とかでも行っていそうな、、、デカい手術台・・・
なんてものは一つもなく。
電球や明かりもなければ、妙に薄暗い空間と、どこかで見たことのあるモニター。
実験室かのように散らばったその無数のケーブルと音楽機材は・・・
「モチさん?」
「はい」
「これは全て僕の物置家から取ったものですか?」
「はい。そうです…」
通りで最近忘れ物が激しいと思っていたわけだ。
「忘れた」のではなく、この目の前の宇宙人に「取られていた」のだがな。
モチはモジモジしながら、こちらの反応を待つように何度もちらりと見つめてくる。
焦れったいんだかなんだか。
ここはあえて正直であることを潔いと褒めるべきなのだろうか、
それとも無断で取ったことを叱るべきなのだろうか。
寧ろ、ここまで来たら逆にそれ以上があるのかが不安で仕方ない。
と、まあ、ここは一度深呼吸。
「は~」
「怒る?」
「別にこれしきでは怒りませんよ、安心してください。モチさん」
「そお?やっぱロンは優しいね!」
いや、こう言ってるけど自分でもびっくりだよ。
流石に目上のモチさんには怒れないからこう言ってるだけだけどね。
「でも次何か物を取る時はちゃんと言ってください。
僕はこれからが心配です」
「あい。わかりました」
「あと、『やっぱり』ってどういう意味ですか?」
「あーー、えーっと、呼び方はモチさん!じゃなくて、モチでいいよ!」
すらした?
E?名前?
「え?いきなり呼び捨てですか?」
「モチさん・モチさんなんて固っ苦しいじゃん。
わたしもロンのことはロンって呼ぶからさ!」
お前はさっきからずっと呼び捨てで僕の事を呼んでいただろ。
まあいいけどさ。
さっき初めて会ったのにも関わらず、僕の名前を知っているのも変だよね。
寄生されていたから当たり前か。
「それは構いませんが・・・それでは、モチ・・・ちゃん?」
「モチちゃんでもいいけど、あと敬語も!」
「恐れ多いですよ。じゃなくて…難しそうです。モチ…ちゃん」
「良し」
何が『良し』なのだろう…
兎も角。気になるその宇宙船の中身は…
というより。
部屋にしか見えないその機内は…
見た感じ。近未来的、変な物は一つも無い。
ただ、部屋のど真ん中を大きく占める、一人用にしては大きすぎる円形状のデカいオペ台にも見えるベッドと、その奥の片隅に見える、デスクも何もない、ただ白く湾曲した壁に向いた、銀色の椅子みたいのものだけがある。
それ以外全部、ここの世界から持ち込んだ物ばかりで、服と物が散らばっている。
ゴミ部屋ではないが、素質はある。
あとなんか微妙に僕の家の物が多い気もするけど…
「ほら! こっち!」
そう周りを見渡していると、モチはこの世界で手にしたであろうパソコンと、ずらり並ぶ音楽機材があるデスクに座り込み、足置き用の椅子みたいなのを僕に差し出し、彼女の横に並べた。
「ここに座って!」
「ありがとうございます。」
「あ・り・が・と・う!」
「すみま、ごめん。でもちょっとやっぱり同様しちゃってて・・・」
そんなに敬語が嫌いなのかこの人は?
「ロン!これ聴いてみて、今から作るやつ」
「うん…」
そういいながら、もはやスタジオレベルと言ってもいいほどに、
部屋全体が響く大音量で、モチは作曲中だというデモ音源を流した。
!!
♪♪♪
よくよく考えると、これって自分の身の安全確認もしないで、
ホイホイと知らない宇宙人?の宇宙船に入って、
人体改造した身体にされて返されるとかないよね?
モチは宇宙人?で宇宙船も持ってて、音楽も出来て、
まさに才色兼備という言葉がふさわしいアーティストが、
深夜宛ら、見ず知らずの僕に作曲を依頼してくるとは、
これでも本当に宇宙人か?・・・
彼女。実はとても優秀な若手パイロット宇宙人だったりして・・・
いや、この機体に他の宇宙人が居る可能性も捨てきれない。
一応、この’部屋’を見る限りは…いなさそうだけど…
それより、僕たちは今なぜ曲を聴いているんだ?
彼女の本当の目的はなんなんだ?
あとそういえばもう朝だったな。
♪。
「どお?」
「え?」
やばい。聞いてなかった。
考え事で頭に入ってこなかった。
「え?じゃなくて、この曲どう思ったの?なにかいいアイデアある?」
「えーーーっと、モチさんらしくて、とても良いサウンドだと思いますよ」
「ああもう、耳に入ってないな、これ。ロンはとにかく考えすぎ」
ご名答!
これが宇宙人テクのテレパシーなのか!?
(読めていますか?あー!あー!あー!)
「聞きたいことがあるなら答えてあげるから言ってみなよ」
「ありがとうございます。えーっと・・・」
あなたはね、僕の気を知ったような感じで喋っている気がするんだけど。
こっちはお察しの通り、疑問が有り余って仕方がないんだよ。
「モチ・・・ちゃんは本当に宇宙人なんですか?」
「敬語。」
「失敬。モチさんは、本当に宇宙人?」
「そうだよ。
わたしはモチ。
はるか遠い宇宙からやって来た、世界一の歌手になるアイドルなの。
もういい?」
『もういい?』???!?!?!?!?!?!
当たり強くない⁇
どういう意味だ?
質問は『もういい?』って事なのか?
質問コーナー早くない⁇
もしやまずい質問でもしてしまったか?
それとも、敬語使ったから?
曲を聴いていなかったから?
まだ聞きたい事は沢山あるのに・・・
でも、今ので宇宙人かどうかなんて、どうでもよくなった気がした。
それでもやっぱり一応、念のために聞いてみる。
「まさか、この地球に一人忘れられた。とかではないですよね?」
「↑まさかぁ!確かにわたしは宇宙人だけど、あんな気味悪い宇宙人じゃないよ~」
「宇宙から来たんですよね?他にもモチちゃんが沢山いるんですか?」
「だから…えぇーーと・・・
流石にどこから来たかは言えないけど、
わたしがここにいる理由は、ロンと一緒に音楽を作って世界を救うためなの」
ハハッ。笑わせる。
何処から来たかは自分の自己紹介の方で言っちゃってるけど、そこに自覚あるのだろうか?
「世界を救う?のですか?僕が?」
「わたしを世界一の歌手にしてね!」
「争いごとなんて嫌ですよ、僕は…」
「大丈夫!大丈夫!そんなに機動性無いからこれ!ハハハッ!」
「ははは…」
モチは僕の肩を思いっきり叩きながら腹笑いする。
やはり宇宙人との意思疎通は難しいものなのだろうか…
UFOを目の前にして、ガールがボーイをDQNミーツして、
まともな説明無しに一緒に曲を作ろうなんて、何処かの番組の撮影で後々ドッキリでした!
とかじゃないと流石に呑み込めない。
だけど。今はそんな心配事をする暇もないようだ。
こちら側に向いていたモチは、椅子をくるりと一回転させ、モニターに向いては床にギリ届かないぐらいの高さの足をバタバタさせ、今でも弾けそうなくらいの勢いでスペースボタンを思いっきり叩き、もう一度トラックを流した。♪
椅子、もう少し低くすればいいのに…
「それじゃあ、始めようか!」
「お、おう!」
こうして、僕らの音楽は、開幕を迎えたのである。




