第二話「もしかして宇宙人?」
「モ、モチちゃん?!」
『!!』
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「ロン!!」
「はい!」
モチは僕に覆いかぶさったまま、思いもよらぬ交渉を交わした。
「ロン。わたしと・・・一緒に、音楽を作って!」
「は、はい?」
「本当にいいの?」
「ぅ?うん?」
「やったあ!!!」
言ってる意味がわからないまま了承。反射で頷いてしまった。
僕は今、何を承諾したのだろう?
するとモチは、顔に満面の笑みを浮かべながら立ち上がり、歓喜のジャンプを上げ始めた。
何がそんなにうれしいのだろう。
「やった!↑やった!↑やった!↑…」
それより、後ろにあったUFOはどこに行ったんだ?
僕は地面に寝ころんだまま後ろを振り返り、そこにあるはずのUFOを確認する。
すると、さっきまでそこにあった宇宙船の様なものは影もなくすっかり消えていた。
「えっ?!どこに・・・」
あれは幻覚だったのだろうか。
それとも、もう一度透明化したのだろうか?
気配すら感じられない。
「はい!!」
と、考える暇もないまま、声がする方向に振り向くと。
紫のような桃色ヘアと、おっとり垂れ目が特徴の少女が、オーバーサイズ《ぶかぶか》の水色パーカーを着て、白く小さな華奢な手を、僕の目の前にきっぱりと伸ばしていた。
「はい!ロン!」
「え?!モチさん!?」
あのモチさんが目の前にいる!?
え?なに?何が起きているの?!
「早くとって」
「は、はい」
「んっ!」
「ありがとう…ございます」
僕は小さな彼女の手を取り、立ち上がる。
彼女はその軽そうな体重で本当に僕のことを起き上がらせる事が出来ると思ったのだろうか?
一応、与えられた親切には感謝しておく。
「ふふーん」
モチは両手を後ろに組みながら、にやけた笑顔でこちらを下から見つめてくる。
な、なんだ?僕になにか変なものでもついているのか?
もし付いているのなら、さっきの頭突きとタックルで貰ったたんこぶくらいだろう。
そしてその目には、その目の奥には、
何か闇が潜んでいるような、悪い笑みが浮かんで見えた。
「え、あ、え、ど、ななんですか???」
「いや?なんでもないよ? ふ。
ただ、今ロンがこうやって戸惑っているのを見ると面白いなって。ふふっ」
「え?は。ははは…」
なんでもないよ?じゃないでしょ。今明らかに僕を見て笑ったでしょ。
だって、今、後ろにUFOが・・・・なくて、
いきなりモチちゃんがどついて現れて、、、えーーーと
・・・
ひとまず落ち着こう。
僕も心臓も状況の理解が追い付いていけなくて、言動が全てキョどっていた。
考えろ。
この立場に置いて僕は責められる側ではないはずだ。
不法侵入に、びっくりUFO。
そしてあの超有名の彼女がここにいる理由を、後ろのも含めて説明していただきたい。
今その全てが謎だ。
だけど…なんだろう。
この彼女の笑顔を見ていると、さっきまであった恐怖心と不安の念が少し消えたような気がした。
それより、ここは『誰ですか?』からだろうか?
いや、これはあのモチちゃんだと見てすぐわかる。
『なんで僕の名前を知っているんですか?後ろにあったこれは何ですか?』
逆に何を聞けばいいんだろうか・・・・・・・・・いや、この際は…
「えっと…モチさんは・・・」
「まって!ロンが今言いたいことはよーーーく分かってる。
君は今、何故わたしがここにいるのかを聞きたいんだね!」
不正解。だが、強ち間違ってはいない。
でも、それよりもっと疑問に思うことがある。
「はい。モチさんはなぜ僕のパーカーを着ているのですか?」
モチはその大きな目をぱちくりさせ、自分が今着ている洋服を確認するや否や、
顔を『へ』の字にし、斜め上の返答に首を傾げた。
「あっれぇ?」
「あっれぇ?じゃないですよ。
その服って僕のですよね?モチさんにはサイズもあっていませんですし」
「あああーー、えへへ、ちょっと貸してもらってる///」
『ちょっと貸してもらってる』じゃねえ。めっちゃ探したわ。
そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしても無駄だ。
これで貴様が家に蔓延っているという言質は取れた。
おっと、聞きそびれるところだった。
「なんでここにいるんですか?モチさんは本当に宇宙人なんですか?」
「アハッ!ええっと・・・・」
あ、笑顔に戻った。
表情の気変わりが早くて、まるで小動物でも見ているかのようだ。
モチは『ぱんっ』と服を叩き、気を取り直した。
そしてそのまま両脚をがっと肩幅まで開き、左手を腰に添え、もう片方の手は頭上高く指さしながら、モチは決めゼリフのように言った。
「わたしはモチ!遥か遠い宇宙からやってきた、
世界一の歌手になるアイドルなの!」
おお凄い。
でもリアルで見るとなんかすっごく痛い。
「はい、動画で見たことあります。ここにいる理由は何ですか?」
「わたしがここにいる理由は、君と音楽を作るためさ!」
「音楽を僕と?」
「うん!そーだとも!」
モチは、ぽんと胸を叩きながら誇らしげに言う。
一応。曲を作ること自体には問題ない。
だけど、ここにいる理由が僕と一緒に音楽を作る為か?
アーティストとして僕の事を知ってくれているのか?
流石にそんなわけなかろう。
僕と彼女が作る曲では、天と地ほど知名度が違う。
なのに、今までソロやってきたでアーティストが、マイナーDJの僕にいきなり何用だ?
冷やかしなら御免だぞ。
僕だって最近二人のユニットを組んで、知名度はイマイチだが、頑張ってる。
だから、世界一にでもなりたいなら、
僕じゃなくてもっと凄い人がいっぱいいるはずだろうに・・・
「だってモチさんは僕よりずっと大きくて、有名で...
音楽を作るなら僕よりもっといい人がいるはず。
しかも...」
「もー!それは関係ないって言ってるでしょ。
君が曲を作って、わたしがそれを歌うの!」
「でも…」
「ア゙アァァァ!」
気が切れてるところ申し訳ないが、
そりゃこんなに旨い話が来れば誰だって二段階、三段階認証だってしたくなるさ。
「僕が作った曲を歌ってくれるのですか?」
「そう言↑ってる!だから今はそれでいいの!」
もうこれは何を言っても、すぐに言いくるめられる感じがするな。
モヤモヤが晴れない。
あと『今はそれでいい?』これ以上僕に何を要求するんだ?
この契約書には書かれていない内容でもあるのか?
「本当に僕でいいんですか?」
「本当に!」
「本当に本当?」
「ほんとにほんと! ほら!今から作りに行こう!」
「え?! 今から?!」
「もちろん! だってもう時間が無いんだよ!?」
「時間がないんですか?」
「そうだよ~ほら~はやく~」
「は、はい。じゃあ行きましょう」
芸術は爆発だ。ぐらい勢いのある人だ。
まあ、あれほど有名なら時間がないのも当然だろう。
だけど、いきなり現れて、一緒に曲を作ってくれだとか、
今から曲を作ろうだとか、一体どういう神経で動いているんだ?
こっちには聞きたいことが山ほどあるのに…
と、またもやそんなことを考える暇もなく。
『曲を作りにさあ行くぞおおお!』と、目の前を指さしながら、
どこかおもちゃの宇宙飛行士のようなセリフを言い放ったモチは歩き出した。
「えっ⁉」
「アレ⁇」
僕とは逆方向に、すれ違うように・・・
一応僕は、この屋上に来た時の階段ドアに行こうとしたんだが、
モチだけは、何もない屋上の真ん中に向かって歩き出していた。
「あ・・・えへへ、こっちだよ? 」(∀`*ゞ)
こうして、
新たなる冒険に踏み出した僕らの第一歩はお互いに、相まみえなかった。




