第一話「となりの宇宙人」
最近話題の新星アーティストの新作MVに、
とある見覚えのある景色が映っていた。
彼女が歌っている場所は、僕が住むビルの屋上によく似ていて、
新東京全てが見渡せるほどの、ひらけた景色が映し出されている。
そんな、ここよりも暖かい日差しが見られる場所はないと言えるほど、
陽光と絶景に包まれた場所で、彼女は一人、踊っている。
「それにしてもよくできたMV・・・ん?」
***なんならそれは、僕の窓から見える景色と同じであった。***
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そして今。地面に突き飛ばされて仰向けになった僕の上で、
彼女は息を切らしながら僕に覆いかぶさっている。
「ぜーーぜーーはーーはーーぜーぜー…」
目を見開くと、
どこか見覚えのある薄い紫銀色のショートヘアがふわりと目の前に垂れていた。
その奥には、薄暗い中でもくっきりとわかる真っ白な肌と、
青空がかった大きなまんまる瞳の女の子。
「ぜー…はー…ぜー…はー…」
依然。彼女は僕に覆いかぶさったまま、しばらく息を上げている。
そんな彼女の横顔に、優しい日の出が眩しくあたると、
焦りで真っ赤になった顔の、眩しそうにしているその目から、
今にも降ってきそうなくらいの水たまりが見えてくる。
こちらを強く見つめるその瞳は、どこか遠く儚く物憂げで、
その顔は、笑顔で穏やかだった。
お互い。なにも言わないまま、ただ見つめ合う。
と。そんな、どこかで見たことのある彼女は…
そう。
彼女はあの、かの有名なアーティスト・・・
「はぁ…はぁはぁ・・・・・」ごっくん!
「モ、モチちゃん!?」
『!!』
だったのだ。
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ーー
こうなった経緯を説明しよう。
正直、どう言い表せれば分からないけど。
まず、このビルの屋上、つまりあのMVに映っていた場所に行くには、
このビルの最上階である、僕の家の中を経由して、
裏口の階段から屋上デッキに昇る必要があるんだけど…
要するに。僕が知らぬ間に、僕の知らぬ誰かが、僕の家に入って…
あのMVを撮影したという事だ。
『この家では何かが起きている。』
この得体の知れない疑問が、この恐怖が、
朝五時半の僕の眠気を一気に切らし、ベッドから飛び上がらせたのだ。
早急に自室から抜け出し、まずはリビング全体を窺った。
なにもない。
バスルーム。
なにもない。
キッチン。
なにもない。
頑なに、残りの部屋も巡回。
そしてベットの下。
「なにもない!」
これは勘違いなのではないだろうか?
いや、ありえない。
だってジョナおじさんは僕が高校を卒業して以来ここには住んでいないし、
屋上の事に関しては何も言っていなかった。
このマンションだって、一階につき一つのアパートだから、同じ階の住人は存在しない。
一つ下の階から登るったってミッション不可能にもほどがある。
逆に、誰とどんな関わりをすれば、このアーティストがここの屋上に行けるっていうんだ。
このマンションにはフェイスセキュリティだってあるし、僕の家には鍵だってかかって…
・・・・そういえば、ジョナおじさんの鍵どこに置いたっけ…
背筋が凍り付く感覚が走った。
一旦ダイニングテーブルに座り、落ち着いてスマホで動画をもう一度確認した。
「・・・っ!!」
即座。僕はテーブルにスマホを置き、まだ巡回していないベランダ兼バルコニーへ走った。
やっぱり間違いない。見間違いじゃない。
これはどう見ても、ここからの景色のアングルと同じだ。
だけど、ここから周りを見渡す限りはこのビルと並ぶ高さの塔なんてないし…
あの動画に映っていた建物の造形だって同じ。
それと、今この家に住んでいるのは僕しかいないはずだ!
僕の家であんな韓国映画みたいな事があってたまるか!
「・・・・・・」
冗談言ってる場合じゃない。
あと残すは本当に屋上だけになってしまった。
笑えない。
そして僕は、恐る恐る家の裏口へ向う。
ゆっくりと、屋上デッキに続く階段を上り、誰もいない事を懇願。
怯え締まった喉からギュッと気合の固唾も飲み込む。
そして、そっと。
冷風があたって重くなった屋上のドアを開けると・・・
なにも・・・「ない・・・・・・し、寒い」
だが、やはり間違いない。
あのMVと同じだ。
いや、あのMVが同じだ。
だけど、屋上に見えるのは、今夜降った雨の水たまりと、
夜明け前の雲に届きそうなくらい澄んだ、軽い空気だけ。
この新東京を見渡せる絶景はもう見飽きているので何も感じない。
「おかしいなぁ・・・」
別に何かがある事が嬉しいわけではないが、
何もないことを少し不審に思いながら、景色を見渡すように歩いていると…
.
.
ガコンッ!
「痛ったああ!」
おもいっきりおでこをぶつけた。
何もない目の前の空間に、頭をぶつけた。
額にたんこぶが出来ていないか、頭に手をあてて確認する。
ん? まてよ?
「頭を・・・・・ぶつけた?」
何もないのに、何もないのに…
何かにぶつかった。
「え?」
僕は今、何も無い目の前に頭をぶつけた。
視線をぐるりと一回転。
頭上を見ても、鳥一匹すら飛んでいない。
何かがぶつかってきたわけでもないのに、
なぜか、頭がぶつかった。
そう疑問に思いながら、ぶつけた頭を押さえ足元をよく見ると、
雨で水浸しになったのはずの屋上のど真ん中がそこだけ綺麗な円形状に、
水たまりが無い場所があった。
「あれ?」
そして、なにもない不思議なそこに、
何かがある気がした。
目の前に、ゆっくり、手を伸ばす。
ふわんッ…
!!!!
「なんだ! これ?」
泡に触れる感触がした。
何もない空気に、何も見えない背景に、触れている。
両手で触ってみると、後ろの背景が蜃気楼のように揺れ、
しゃぼん玉が景色を反射するように、それはうっすら光を放ち始める。
「うわあ!すごい感覚!!」
力強く押すと、遅れてやってくるふわりとした感覚。
熱はない。
そしてそのまま、キラキラ光る不思議な感覚に見取られて触っていると
瞬間。
ぱっ!と目の前の蜃気楼が一瞬にして消えた。
「っ!!」
息を飲み込んだ。
きっと僕はその時、取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。
だって目の前に見えていた街並みの背景が、景色が、視界全体を塞ぐ大きな銀色の壁に変わっていたから。
だってそれは、どっからどう見ようが、誰から何を言われようが。
視界に収まらないくらいのビッグな
おもいっきりUFOだった。
‐‐
「・・・・・・ぇっ!?」
あまりの驚きに言葉が出ない。
両脚も固まって、鼓動と呼吸だけが速まるのが感じられる。
「はぁ…はぁ…はぁ・・・・・・UFO?
No way…そうだ。
これはきっとおとぎ話とかかなんかで出てくる・・・
僕は今きっと夢を見ているに違いない!
明晰夢とか!ハハハッ!・・・・・・・・・・・・・」
隠しきれない動揺を前に、僕は自分の手足の存在を確認する。
(あった。)
しかし当然、これがUFOだということがまだ信じられない。
そうだ。
ちょっとほっぺをつねってみよう。
「うっ!・・・やっぱり痛い・・・」
やはりと言っては何だが、夢ではないらしい。
どう感じるべきが正しいんだこれは・・・もう、えぐい。
そしてその恐怖とは裏腹に、興味本位的に、ゆっくりと、目の前の金剛不動のUFOを触ってみる。
ペタペタ…
「アンベリーバホー・・・本物だぁ、Wow」ペタペタ…
見た感じ、触った感じ。
そのUFOは、テレビやマンガで見るような継ぎ目1つない綺麗な鋼鉄銀色の円盤型で、シンプル鉄かとは思えない程冷たく冷えている。
それと大きすぎるあまりか、どら焼き状になっているUFOの下の方からは、その上部分は見渡せない。
離れれば見えるだろう。
「でかーー」
そして僕が目の前のUFOに興奮して目が釘付けになって気づかぬ間に、
後ろの階段の扉がガチャンと音を立てて思いっきり開かれた。
一つの叫びとともに。
「あああああああああああ!!!!!!」
後ろから唸るような絶叫が聞こえた。
それでも、何度も聞いたことがあるような声の、透き通った丸く可愛い声で。
僕も思わず叫んだ。
「うわぁあああああ!!!!」
振り向いた瞬間。
自分めがけて全力疾走で突撃する白い闘牛が見えた。
「どいてーーーーっ!!!!!」
「!!!」
勿論。避けることはできない。
(なるほど!これが異世界転生前に主人公が見る最後の景色!)
「おふぅっ!!」
腹部にラグビータックルをくらった僕は、おもいっきり地面に叩きつけられた。
「痛ててて・・・」
「・・・・・・・」
そして、どつかれたと思いきや、
僕に跨った彼女は静かに目を閉じ、
無言で頭上にそっと手を伸ばし、ゆっくりUFOに触れた。
すると、それは意識よりも速く、ぱっと背景に姿を消した。
(消えた?!!!)
余りの驚きにお目目がパチクリ。
彼女の方へ、もう一度視線を向ける。
すると、全力疾走の上、UFOを透明化させる為?
息を止めた余韻で唖然としていた彼女はおもいっきり息を吸い込み、
悶える荒い呼吸で目を開けた。
「ス↑ーーーーーハァ↓ーーーー!ス↑ーーーハァ↓ーー・・ゼ↑ーーハァ…ゼーゼーー…ハァハァ…」
そんな息を切らした少女を、僕は見つめる。
そしてその少女もまた、僕を見つめている。
白くもちもちしたほっぺたは、桜の花のような淡い色味を帯びて、
無造作にぷにぷにしたくなるほど可愛い。そしておいしそう。
お互い、何も言わないまま、ただ見つめあった。
なんて可愛いんだ・・・・じゃなくて。
そう。彼女はあの、かの有名なアーティスト・・・
「モ、モチちゃん?」
「!!」
だったのだ。
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これが、奇想天外より来る、僕のモチとの最初の出会い。
My special thanks to my friends who helped me with this journey.
ろと
ηαqch
John G.
Maruru




