第四話「宇宙人と作曲」
ある日、突如としてインターネットに表れたある一人の少女。
楽曲動画の投稿と共にデビューを果たしてから未だ一年も経っていないにも関わらず、アーティスト界の超新星とも呼ばれるモチの快進撃は凄まじかった。
その歌唱力は、七色の歌声の持ち主や天使の歌声だと称され。
MV映像では、CGとは思えないほどクオリティが高い、地球と新東京を軸としたスケール感満載の動画を毎回提供していたり。SNSでは、中毒性の高いリズムとマッチしたモチダンスが流行ったりとで、時折街中でもモチダンスを踊る人も見かけるようになった。
彼女のすごいところはそれだけではない。
短期でソロアルバムを3つもリリースすると、テレビやレコード会社から捜索願いに聞こえなくもないネット記事が出るほどに目はつけられている。
それでもなお、連絡手段を残さない正体不明の謎アーティストだと言われているのが、彼女、モチだ。
これだけ説明すればいいだろうか。
これは宇宙人だからで説明できるのだろうか。
ともかく、僕は今、そんな超有名な宇宙人と作曲をしている。
「ここの無音からドロップ入る前にシュワ〜ってやつ入れたらもっと弾けるんじゃない?」
「ロンナイスアイデアロン!シュワ〜ね。これこれこれ、こうかな?」
サビ前のドロップに提案を出してみると、
モチは慣れたような手つきで、僕のイメージした通りの音源を瞬時に探し当てた。
「モチはや」
「えへん。んじゃ、もう一回聴いてみよ」
バチンッ!!
モチは曲を再生する度に、これでもかというほどにスペースキーを叩きつける。
彼女は毎回これほど躍動感あふれる感じで作曲しているのだろうか?
最初から少し思っていたけど、僕が知れた気じゃない。
天才はいつも逸脱している。
♪♪♪~
びっくりした。
さっきの質問コーナーが終わってから、もう一度モチが作成中の曲を流した時のことだ。
「これって歌詞からマスタリングまで全部モチちゃんが一人で作ってるの?」
「そうだよ。これからは全部ロン譲りになるけどね」
「え?さっきの一緒に曲を作るって、この一曲に参加するんじゃなくて、僕が全部を?」
「そう。全部。それでわたしが歌うの」
「これ以外の曲も?」
「これからの曲も」
「お、oh、OK、わかりました」
こんな交渉見たことない。
まあ、僕自体交渉を余りしたことが無いのだが、
これって僕がモチちゃんを全面プロデュースするって事になるのか?
本音を言えば嬉しいけど、正直まだ飲み込めない。
だって、モチみたいなこういうアーティスト活動の裏には、必ずビッグな企業や優秀な作家がついているものだ。
だが違った。音源の並べ方、フォルダーの仕切り、適当にくっつけられている予備歌詞みたいなフレーズたち、すべて自分でやっているとみる。
別にモチが一人では出来ないと言っている訳ではない。
その逆だ。全てを一人で作っていることに驚いたのだ。
そして何といっても否めないのは、
その独自のリズムに僕が共感できるっていうところだ。
僕と彼女が作る曲のジャンルが同じだっていう事は以前から知っていたけれど、
(もちろん、それは僕がモチのようにカワイイ声で歌う訳ではなくて。EDMジャンルで、だ)
使っている音源やプラグイン、更にはシンセの音作り、果てには手癖まで驚くほど似ている。
自分が欲しいもの、作りたいものが決まっている感じ。
キーボードに手を置いては自分の鼻唄の感覚を打ち込み当てる。
これが音楽センスというものだろうか?
マイクも、いい物を使っている・・・・・・って
この前物置部屋にしまってから無くなったと思ってたやつじゃねえかおい。
まあいい。
ともかく彼女はすごい。
~♪。
「「良くなった!!」」
「やっぱりロンは分かってるね!」
「そうかな?」
『やっぱり?…?』
感覚的にこの方が気持ちよく聞こえる表現を伝えただけなのに、
それを一発で理解して、そのように再現できてしまうモチの方が凄いけどな…
そんなこんなの道中。
モチのフレンドリーでパッションな喋り方もあってか、最初の敬いを擬した敬語は自然と抜けていった。
モチから散々「さん?」と言われたので、「ちゃん」付けで行こうとも思ったが、ちゃん付けをすると、どうもモチさんの権威が目下の存在に感じてしまうので、ここは敬意を払って、そのままモチとよぶことにした。そのほうが呼びやすいし。
「で、モチさ…この曲の歌詞は既に作ってあるので?」
「この曲の歌詞はロンに任せる」
「任せる?!」
「全部ね」
歌詞は全部任せる?!・・・そんな光栄。喜んで書かせてもらおう。
大御所の概要欄に僕の名前が載ることを考えるだけでウキウキする。
おっと、気を取り乱してしまっていたか。思い出せ、ここは宇宙船の中だぜ。
「さっきのここにあった歌詞みたいなやつは?」
「んん~あれは他で使うかな。なんか思ってたのと雰囲気が違った」
「そう?じゃあ新しく考えてみる。
それと、モチはこの曲にどんな感じの歌詞をつけたいの?」
「ん~、この曲はロンとの出会いを記したものにしたいからー。この心は?」
「僕に心を読めとでも?」
「えへへへ」
モチはこちらを見て失笑した。
ていうかなんだ今の、ちょっと恥ずかしい。
なんてちょっとした冗談も言えるようになってから2時間が経過した。
作曲も順調に進んで、気分がよくなったところでさりげなく立ち上がり、質問してみる。
「急にどしたの?」
「あのモチさん」
「あい」
さん付けしたら、妙に不機嫌な顔をするのをやめてくれ。悪いことをしている気分になる。
「モチが宇宙人でこれが宇宙船だっていう事は理解した。んだけど。
やっぱり。僕と一緒に曲を作るって、、そもそもなんで僕を知っているのですか?」
「理解してくれて結構。わたしがロンと音楽を作るのは・・・・その理由は・・・
それはもちろん運命なのさ」
「運命・・・」
そんな決めゼリフで宇宙人に運命だと諭されたら信じたくもなるけど、
こんなにも有名な彼女が敢えて僕を選ぶだなんて。
流石にそれは僕にとって虫が良すぎる。
あと、僕が欲しいのはそういう答えじゃない。
しかし、まともな答えが返ってこないんじゃ、これ以上なにも質問する気にもならない。
もう疲れた。このPCの時計バグってるんじゃないのか?
「ちょっとここで横になりますね、モチさ…」
「うん。ロンにはいつかバレるってのは分かっていたけど、まさか今日だとは思わなかったよ・・・でもこれからちゃんと話すからもう少し時間を・・・・・って、あらら。もう寝ちゃったの?」
ロンは徹夜。
いつもの朝5時の就寝時間から程よく離れて、
そのまま目の前の円形状のクッションにぐったり倒れ込み、気絶する様に眠った。
モチは動かしている手を止め、ベッドの方に向かった。
そしてベッドで眠っているロンに近寄り、彼の頭をそっと撫でた。
「・・・・・・・・おやすみロン」
z。
zz。
zzz。。
その日、変な夢を見た。
誰かと一緒に手を繋ぐ夢。
さっきの出来事じゃない。
何処か、遠く離れた、長い夢。
・・・




