『監視下の再会』
奈々は、救急車の中で息を引き取った。
それを聞いた時、徹は――何も感じなかった。
驚きも、悲しみも、罪悪感も。
ただ、「そうか」と思っただけだ。
それが一番、異常だと分かっていた。
事情聴取は、終わらなかった。
何度も、何度も。
同じ質問。
同じ視線。
同じ疑い。
「偶然が二度続くと思うか?」
刑事が言う。
「思わないな」
徹は答える。
机の上には、二枚の写真。
美咲と、奈々。
どちらも、同じ終わり方。
街中での射殺。
異常すぎる事件は、連日メディアを賑わせた。
“無差別狙撃犯”。
“都市型テロ”。
好き勝手な言葉が並ぶ。
だが、真実を知っているのは――
徹だけだ。
そして、あの男。
三ヶ月が過ぎようとしていた。
徹は、スマホの契約を切り替えた。
番号も、端末も変えた。
履歴はすべて消した。
もう、繋がらないはずだ。
繋がる理由がない。
――そう思っていた。
秋葉原。
人の波と、ネオンと、電子音。
現実感が薄い街。
徹は、適当に店を回りながら、時間を潰していた。
何を買うわけでもない。
ただ、歩いているだけ。
その時。
――ブブッ。
ポケットの中で、震えた。
心臓が、一瞬で跳ね上がる。
取り出す。
画面。
非通知。
「……」
指が、止まる。
だが。
出ないという選択肢は、なかった。
通話ボタンを押す。
「……誰だ」
分かっているくせに、聞く。
『久しぶりだな』
あの声。
変わらない。
温度のない声。
それなのに。
背筋を撫でるような感覚。
「……お前か」
『ああ』
一拍。
『ちょっとイライラしてる』
徹は、眉をひそめる。
「は?」
『お前とゲームがしたいのに』
淡々と。
『邪魔が多い』
嫌な予感が、ゆっくりと広がる。
『振り向くな』
その一言で、全身が固まる。
『お前の後ろ、三十メートル』
呼吸が浅くなる。
『紺色のアウター。ジーンズ。メガネ』
視界の端で、人影が動く。
『分かるだろ』
徹は、何も言わない。
だが、分かっていた。
『あいつ、警察だ』
心臓が、重く鳴る。
『美咲の時、お前を取り調べた男』
脳裏に顔が浮かぶ。
無表情。
冷たい目。
――あの刑事。
『ずっと尾けてる』
確信に満ちた声。
『つまらない』
男が、吐き捨てるように言う。
『だから、排除する』
「……やめろ」
反射的に出た言葉。
『いいや』
即答。
『ゲームだ』
一拍。
『そいつにスマホを渡せ』
「……は?」
『スピーカーにしてな』
徹の喉が、わずかに動く。
『早くしろ』
命令。
絶対の圧。
徹は、ゆっくりと息を吐いた。
そして。
――歩き出す。
一直線に。
その男の方へ。
刑事――林一男は、明らかに動揺していた。
桐生が向かってくる。
まっすぐに。
「……桐生?」
足を止める。
距離が、縮まる。
「何の用だ」
警戒した声。
徹は、ポケットからスマホを取り出した。
そして。
何も言わずに、スピーカーに切り替える。
「……話があるそうだ」
そう言って。
スマホを、差し出した。
もしも気にいってもらえたら
☆で評価お願いします。
もちろん、ブックマーク、感想などもお待ちしています。よろしくお願いします。




