『選別者』
もう一人の男が奈々に問う。
『目の前の男以外に付き合ってる男はいるか?』
奈々の声が、震えていた。
「……いない……他には……」
かすれた否定。
だが、その一瞬の間。
視線の揺れ。
呼吸の乱れ。
徹には、分かる。
――嘘だ。
『どう思う?』
元の男の声が、耳元に落ちる。
試すように。
誘導するように。
だが。
徹は、迷わなかった。
「……嘘だな」
奈々の体が、びくりと跳ねる。
「ち、違う……!」
すぐに否定する。
だが遅い。
もう、遅い。
『理由は?』
男が問う。
興味深そうに。
楽しむように。
「間があった」
淡々と答える。
「あと、目だな。逸らした」
奈々が、完全に崩れる。
「やめて……お願い……」
涙が、止まらない。
だが。
徹は止まらない。
「それに」
一拍。
「俺のことも、隠してたろ」
奈々の顔が、凍る。
図星。
それが分かる。
『……いいな』
元の男が、低く笑う。
『よく見ている』
評価される。
それが、妙に心地いい。
あの日とは、逆だ。
完全に。
『では』
一拍。
静寂。
奈々と通話してる男が言った。
『不合格だな』
引き金の気配。
「やめて!!」
奈々が叫ぶ。
だが。
徹は、動かない。
ただ、見ている。
その瞬間。
時間が、伸びる。
音が、消える。
そして――
パシィッ――!!
乾いた音。
奈々の体が、後ろに揺れる。
倒れない。
だが。
肩から、血が噴き出した。
「……あ……?」
遅れて、悲鳴。
膝が崩れる。
『……半分だ』
二人目の男が言う。
『まだ生きてる』
徹の目が、わずかに細くなる。
『今はな』
一拍。
「……なんでだ」
自然に、口が動く。
『簡単だ』
男の声が、楽しげに歪む。
『続けたいだろ?』
心臓が、強く打つ。
否定できない。
『完全に壊れるまでが、本番だ』
奈々が、地面に崩れ落ちる。
血が、広がる。
周囲が、ようやく異変に気づき始める。
ざわめき。
悲鳴。
だが、遅い。
すべてが、遅い。
『桐生』
元の男が、静かに呼ぶ。
『どうだ?』
一瞬だけ、考える。
だが。
答えは、もう決まっていた。
「……悪くない」
正直な感想。
それ以上でも、それ以下でもない。
『だろうな』
元の男は満足げな声。
『お前は、そういう人間だ』
否定しない。
する意味もない。
『だから選んだ』
その一言に、引っかかる。
「……最初からか?」
『ああ』
即答。
『最初から、お前だけだ』
背筋が、ぞくりと震える。
偶然じゃない。
無差別でもない。
最初から――
“狙われていた”。
『次で、分かる』
一拍。
『なぜお前なのか』
通話の向こうで、何かが動く気配。
新しい準備。
次の舞台。
『また連絡する』
いつもの言葉。
だが、今回は違う。
確実に、“先”がある。
通話が切れる。
現実が、一気に戻る。
悲鳴。
足音。
誰かが叫んでいる。
「救急車!」「血が……!」
奈々が、倒れている。
意識はある。
だが、遠い。
徹は、それを見下ろし、落ちている自分のスマホを拾い確認する。
もう、通話は切れていた。
そして。
ゆっくりと、スマホをポケットに戻した。
「……なるほどな」
小さく呟く。
理解した。
少なくとも、一つは。
これは。
ただの殺人じゃない。
これは――
“選別”だ。
そして自分は。
選ばれた側。
残す側。
その事実が。
妙に、しっくりきていた。
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