『再会』
屋上に出た瞬間。
風が、強く吹き抜けた。
夜の空気。
街の光。
そして――
「……っ」
徹の視線が、止まる。
そこにいたのは、二人。
一人は、見覚えがある。
「……耕史」
低く、名前が漏れる。
祐子の夫。
元自衛官。
その手には、ライフル。
構えられている。
もう一人。
その隣に立つ女。
街灯に照らされた顔。
「……香織」
喉が、わずかに鳴る。
妻。
最近はずっと口をきいていなかった女。
その口元が、ゆっくりと歪む。
香織は笑っている。
「久しぶり」
その声を聞いた瞬間。
徹の背筋に、電流のようなものが走った。
同時に。
耳元のスマホから、あの声が重なる。
『どうだ』
同じ声。
完全に一致する。
理解が、遅れて追いつく。
「……お前か」
徹が呟く。
香織が、楽しそうに目を細める。
「やっと気づいた?」
一歩、前に出る。
「ずっと聞いてたのよ」
この声を。
あの命令を。
あの“ゲーム”を。
「全部、私」
あっさりと言う。
祐子が、横で笑った。
「声、変えるの上手でしょ?」
軽い調子。
だが、その内容は重い。
徹の中で、何かが繋がっていく。
あの声。
あのタイミング。
あの知識量。
全部――
「……最初からか」
「うん」
香織は即答した。
「最初から」
一拍。
「全部、見てた」
その言葉に、ぞくりとする。
「ねえ、徹」
香織が、首を傾ける。
「楽しかった?」
一歩、近づく。
「人を選ぶの」
奈々の顔が、よぎる。
美咲の血が、浮かぶ。
林の倒れる音。
「……」
答えない。
だが、沈黙が答えになる。
「でしょ?」
香織は、確信したように笑う。
「あなた、そういう人間だもん」
耕史が、無言でライフルを構え直す。
赤い点が、徹の胸に乗る。
正確に。
心臓の位置に。
「ここからが本番」
香織が言う。
「やっと、“あなた”と向き合える」
祐子が、後ろで小さく息を吐く。
「長かったよね」
「準備」
その言葉が、やけに重い。
徹は、ゆっくりと周囲を見る。
逃げ場はない。
高さ。
距離。
銃。
完全な詰み。
だが――
「……なるほどな」
徹が小さく呟く。
「そういうことか」
口元が、わずかに歪む。
恐怖は、ない。
代わりにあるのは――理解。
「全部、仕組まれてたわけだ」
「そう」
香織は頷く。
「あなたが“どういう人間か”を見るために」
一拍。
「そして、裁くために」
風が、強く吹く。
赤い点が、わずかに揺れる。
耕史の指は、すでに引き金にかかっている。
香織が、静かに言った。
「徹」
その声は――
スマホからも、響いた。
同時に。
香織の口が、動く。
完全に一致している。
徹の目が、細くなる。
「……なるほどな」
声を変える機械。
それで。
全部、繋がる。
徹は、ゆっくりと笑った。
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