『親友の告白』
ドアの前に立っていたのは――祐子だった。
視界が、一瞬だけ止まる。
見慣れた顔。 何度も家で会った女。
そして。
祐子は妻と親友で、徹の三人目の浮気相手だ。
「……は?」
徹の喉から、乾いた音が漏れる。
「久しぶり、徹くん」
祐子は、穏やかに微笑んだ。
だが、その目には何もない。 温度が、完全に抜け落ちている。
「……なんで、お前がここにいる」
徹は低く問いかける。
祐子は答えない。
一歩、踏み込む。
その瞬間――
『動くな』
耳元で、あの声。
反射的に体が固まる。
視線を落とす。
胸の中心。
――赤い点。
「……チッ」
舌打ち。
祐子が、小さく笑う。
「もう分かってるでしょ?」
静かな声。
「これ、全部“私たち”なの」
「……私たち?」
眉が、わずかに動く。
祐子は、ゆっくりと頷いた。
「香織と、私」
一拍。
「最初から、一緒にやってたの」
徹の心臓が、重く鳴る。
「徹くんを、壊すために」
祐子のその言葉が、妙な感じがした。
「……は?」
徹の理解が、遅れる。
「ねえ、覚えてる?」
祐子は続ける。
「初めて会った日」
視線が揺れる。
あの日。
香織の隣にいた女。
笑っていた、普通に。
「全部、知ってたよ」
淡々とした声。
「最初から、全部」
背筋に、冷たいものが這い上がる。
「どの女とも寝てたことも」
「嘘ついてたことも」
一歩、近づく。
「香織にどういう顔して帰ってたかも」
「……やめろ」
低く漏れる。
だが、止まらない。
「ねえ」
祐子が、首を傾ける。
「楽しかった?」
一拍。
「私と寝てる時も、“どうでもいい”って思ってた?」
心臓が、強く打つ。
答えない。
だが――
『いいな』
スマホの向こうで、男が笑う。
『その顔だ』
祐子は、その声に従うように少し下がる。
「来て」
外を指す。
「審判の場所に」
「……どこだ?」
「来れば分かる」
赤い点が、わずかに揺れる。
拒否はできない。
逃げ場もない。
徹は、数秒だけ沈黙し――
「……いいだろ」
口元が、わずかに歪む。
「最後まで付き合ってやる」
祐子が、満足そうに笑った。
「そうこなくちゃ」
二人は部屋を出る。
夜の街。
冷たい空気。
無言のまま、歩く。
時間にして、三十分ほど。
途中。
徹の目が、わずかに細くなる。
「……いるな」
「え?」
祐子が小さく反応する。
(尾けられてる)
距離感。 足音の間。 視線の刺さり方。
徹には分かる。
確実に、誰かいる。
だが。
(放っとけ)
そう思った。
「今は関係ない」
祐子は気がついていないのか、何も言わない。
ただ、前を向いたまま歩き続ける。
やがて。
一つの古びたビルの前で止まる。
「ここ」
祐子は短く言う。
徹は、無言で中に入る。
階段を上がる。
ただ上へ。
屋上へと続く扉の前で、祐子が立ち止まる。
「開けて」
徹は、数秒だけ扉を見る。
その向こうにあるもの。
終わりか、それとも、始まりか。
ノブに手をかける。
そして――
開けた。
もしも気にいってもらえたら
☆で評価お願いします。
もちろん、ブックマーク、感想などもお待ちしています。よろしくお願いします。




