第35話 中に入る条件
――今度は、“中で”通せ。
その言葉が、静かに残っている。
「……」
通りは、再び動き出していた。
さっきよりは、ましだ。
完全ではない。
だが、止まってはいない。
「……」
エルナが、小さく呟く。
「……動いてる」
「……」
「……でも」
一拍。
「まだ、無理なんだよね」
振り返る。
あの男を見る。
「……」
男は、変わらずそこにいる。
腕を組み、通りを見下ろしている。
「……」
女は、答えない。
ただ。
その男を見る。
「……」
そして。
歩き出す。
「……」
今度は、迷わない。
真っ直ぐ。
男の前まで。
「……」
エルナが、息を呑む。
「……」
カイルが、楽しそうに目を細める。
「……行くか」
「……」
女は、男の前で止まる。
「……」
「……何だ」
男が言う。
「……」
「……条件を」
女が言う。
「……」
「……提示してください」
その一言で。
空気が変わる。
「……」
男の眉が、わずかに動く。
「……」
「……条件?」
「……」
「……この通りで、判断を通すための条件です」
淡々と。
だが。
逃げない。
「……」
沈黙。
「……」
カイルが、小さく笑う。
「……なるほど」
「……」
「権限を否定するんじゃない」
一拍。
「“乗る”のか」
「……」
女は、何も言わない。
「……」
男は、少しだけ考える。
そして。
「……いいだろう」
低く言う。
「……」
「……通したいなら」
一拍。
「責任を持て」
「……」
エルナが、眉をひそめる。
「……責任?」
「……」
「……失敗した場合」
男は続ける。
「この通りの損失は、お前が背負え」
その一言。
「……」
空気が、張り詰める。
「……」
ミレイユが、低く呟く。
「……責任の強制」
「……」
エルナが、思わず言う。
「……そんなの、無理でしょ!」
「……」
男は、肩をすくめる。
「……なら、やるな」
簡単に言う。
「……」
「……ここはそういう場所だ」
その言葉。
重い。
「……」
女は、何も言わない。
ただ。
少しだけ目を閉じる。
「……」
考える。
時間は、長くない。
「……」
そして。
目を開ける。
「……」
「……受けます」
静かに言った。
「……!」
エルナが、息を呑む。
「……」
「……本気か」
男が問う。
「……」
「……ええ」
迷いはない。
「……」
カイルが、小さく笑う。
「……いいな」
「……」
「面白くなってきた」
「……」
男は、ゆっくりと頷く。
「……」
「……なら」
一歩、下がる。
「やってみろ」
その一言で。
“場”が渡される。
「……」
空気が変わる。
今度は。
明確に。
「……」
エルナが、震える声で言う。
「……大丈夫なの?」
「……」
「……失敗したら」
「……」
女は、短く答える。
「……失敗しません」
「……」
その言葉に。
迷いはなかった。
「……」
そして。
前に出る。
「……」
通りの中心へ。
今度は。
“中”だ。
「……」
「……全員、聞いてください」
初めて。
声を張る。
「……」
空気が、揺れる。
「……」
「この通りは」
一拍。
「今、最も損をしています」
その一言で。
全員の視線が、集まる。
「……」
「……だから」
一歩。
「全員が、少しずつ損をしてください」
その言葉。
「……」
沈黙。
「……」
そして。
「……は?」
誰かが、声を漏らす。
「……」
当然だった。
「……」
女は、続ける。
「一人が得をする形は、成立しません」
「……」
「ですが」
一拍。
「全員が、少しずつ譲れば」
「……」
「全体は、動きます」
静かに。
だが、確実に。
「……」
その時だった。
「……ふざけるな」
強い声。
「……」
先ほどの商人が、前に出る。
「……」
「なんで俺が損するんだ」
「……」
「……」
対立。
避けられない。
「……」
女は、視線を向ける。
「……」
そして。
「……では」
一拍。
「ここで止まってください」
あっさり言った。
「……」
空気が、止まる。
「……」
「……何だと?」
「……」
「……」
「……それが、あなたの選択です」
その言葉。
「……」
男が、言葉を失う。
「……」
そして。
ゆっくりと。
周囲を見る。
「……」
他の商人たち。
運搬人。
全員が、見ている。
「……」
沈黙。
「……」
「……ちっ……」
舌打ち。
「……」
「……少しだけだぞ」
小さく言う。
「……」
その一言で。
流れが、決まる。
「……」
他の者も。
少しずつ、譲る。
「……」
通りが。
動き出す。
「……」
今度は。
確実に。
「……」
エルナが、目を見開く。
「……できた」
「……」
「中で、通った」
「……」
ミレイユが、静かに言う。
「……責任を背負ったことで」
「……」
「選択を、強制した」
「……」
カイルが、笑う。
「……怖いな」
「……」
「だが、効く」
「……」
男が、静かに言う。
「……」
「……通したな」
「……」
女は、何も言わない。
ただ。
静かに頷く。
「……」
その時だった。
「……」
遠くで。
別の怒号。
「……」
「……こっちも止まってるぞ!」
「……」
エルナが、振り返る。
「……」
別の通り。
同じ状況。
「……」
女は、静かに見る。
「……」
そして。
「……」
「……一つでは、足りませんね」
その一言で。
戦いが、広がった。
「中に入る」には、責任が必要だった。
そして、それでもまだ足りない。
この先は、“一箇所の解決では終わらない話”になります。
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