第34話 外から崩す
――通せる場所で来い。
その言葉が、耳に残っていた。
「……」
女は、歩きながら考えている。
先ほどの通りは、もう見ない。
見る必要がない。
“中からは動かない”と、理解したからだ。
「……」
エルナが、隣で不満そうに言う。
「……納得いかない」
「……」
「止まってるのに、何もできないって」
その声には、苛立ちがあった。
「……」
女は、短く答える。
「……できます」
「……え?」
「……」
「方法を変えるだけです」
淡々と。
だが、確実に。
「……」
カイルが、横から口を挟む。
「……さっきのは“内側”の話だ」
「……」
「中に入って、順番を決めて、流す」
一拍。
「だが今回は違う」
「……」
「“中に入れない”」
「……」
エルナが、顔をしかめる。
「……じゃあ、どうするの」
「……」
女は、少しだけ視線を上げる。
周囲を見る。
「……」
人の流れ。
別の通り。
市場の入り口。
「……」
「……分断されています」
ぽつりと呟く。
「……」
「……え?」
「……」
「通りごとに、動きが独立している」
「……」
「……」
ミレイユが、静かに頷く。
「……連携がない」
「……」
「……」
女は、さらに言う。
「……なら」
一拍。
「“繋げます”」
その言葉に。
空気が変わる。
「……」
「……どうやって」
エルナが問う。
「……」
女は、答えない。
ただ。
一つの露店へ向かう。
「……」
そこには、小さな商人がいた。
人通りは少ない。
目立たない場所。
「……」
「……この通りは」
女が、唐突に言う。
「どこに繋がっていますか」
「……?」
商人が、戸惑う。
「……何だい、急に」
「……」
「……別の通りに抜ける道は」
淡々と続ける。
「……あるのか」
「……」
商人は、少し考える。
「……あるにはあるが」
「……」
「細いぞ。荷車は通れない」
「……」
「……人は?」
「……通れる」
「……」
女は、頷く。
「……」
「……それで、何をするんだ」
商人が怪訝そうに聞く。
「……」
女は、振り返る。
「……エルナ」
「……え?」
「……」
「人を、誘導してください」
「……」
「……どこに?」
「……」
「……反対側へ」
短く。
「……」
エルナが、一瞬だけ迷う。
だが。
「……わかった」
すぐに動く。
「……」
人の流れに入る。
「……こっち、通れるよ!」
「……」
「こっちの方が早い!」
声を張る。
最初は、誰も動かない。
だが。
一人。
また一人。
動き出す。
「……」
細い道へ。
人が流れる。
「……」
その瞬間。
「……」
元の通りの圧が、わずかに下がる。
「……」
カイルが、目を細める。
「……なるほど」
「……」
「“流れを分けた”か」
「……」
女は、何も言わない。
ただ、見る。
「……」
さらに。
別の場所へ向かう。
「……」
「……次は」
一拍。
「荷です」
「……」
別の商人に声をかける。
「……この荷は、急ぎですか」
「……?」
「……いや、明日でもいい」
「……」
「では」
一歩。
「少し、回ってください」
「……」
「……遠回りになるぞ」
「……」
「ですが」
一拍。
「通れます」
「……」
商人が、少し考える。
そして。
「……まあ、止まるよりはマシか」
頷く。
「……」
荷車が、別の通りへ流れる。
「……」
その結果。
「……」
詰まっていた通りが。
ゆっくりと、動き始める。
「……」
エルナが、目を見開く。
「……動いた」
「……」
「……中に入ってないのに」
「……」
ミレイユが、静かに言う。
「……構造ではなく」
「……」
「流れを変えた」
「……」
カイルが、小さく笑う。
「……面白い」
「……」
「中を変えられないなら」
一拍。
「外から崩すか」
「……」
女は、何も言わない。
ただ。
静かに頷く。
「……」
その時だった。
「……」
背後に、気配。
「……」
振り返る。
あの男だ。
「……」
腕を組んで、見ている。
「……」
「……やり方を変えたな」
低く言う。
「……」
女は、答えない。
「……」
「……悪くない」
一拍。
「だが」
「……」
「それは“ここ”には入っていない」
その一言。
「……」
エルナが、息を呑む。
「……」
男は続ける。
「外から回しただけだ」
「……」
「……」
「中は、変わっていない」
その言葉が。
突き刺さる。
「……」
女は、静かに見る。
「……」
「……だから」
男が言う。
「もう一度、来い」
一拍。
「今度は、“中で”通せ」
その言葉で。
次の戦いが、決まった。
やり方を変えれば、動かせる。
でも、それは“本当の解決”ではない。
次は――中から変えられるかどうか。
続きが気になったら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。




