第36話 広がりすぎた流れ
――一つでは、足りませんね。
その言葉の直後だった。
「こっちも詰まってるぞ!」
「誰か仕切れ!」
別の通りから、怒号が飛ぶ。
「……」
エルナが、思わず振り向く。
「……増えてる」
さっきまで一箇所だった混乱が。
今は、複数。
「……」
女は、静かにそれを見る。
驚かない。
予想していたからだ。
「……」
「……来ましたね」
小さく呟く。
「……」
カイルが、肩をすくめる。
「……当たり前だ」
「一つ動けば、他も動く」
その言葉通りだった。
「……」
流れは、連動する。
一箇所を動かせば、別の歪みが出る。
「……」
「……どうするの」
エルナが問う。
さっきまでの自信は、少し揺らいでいる。
「……」
女は、短く答える。
「……同じです」
「……」
「え?」
「……」
「一つずつ、通します」
淡々と。
だが、それは。
現実的ではない。
「……」
ミレイユが、静かに言う。
「……時間が足りません」
「……」
「……」
女は、何も言わない。
だが。
その通りだった。
「……」
「……ほらな」
カイルが笑う。
「……やれることと、やれないことがある」
その言葉。
「……」
エルナが、食い下がる。
「……でも、やらないと」
「……」
「止まる」
それも、事実だった。
「……」
女は、少しだけ目を閉じる。
考える。
「……」
だが。
すぐに開く。
「……」
「……分けます」
短く言う。
「……」
「……何を?」
「……」
「役割です」
一歩、前に出る。
「……」
「……エルナ」
「……!」
「……」
「この通りを任せます」
「……」
「……え?」
エルナが、固まる。
「……」
「……さっきと同じやり方で」
「……」
「通してください」
それだけ。
「……」
「……む、無理だよ」
即答だった。
「……」
「……」
「……できます」
女は、迷わない。
「……」
「……見ていましたね」
一拍。
「……どうやるか」
「……」
エルナが、言葉に詰まる。
「……」
確かに。
見ていた。
理解も、している。
だが。
「……」
「……一人でやるんだよ?」
「……」
「……ええ」
それも、否定しない。
「……」
「……」
エルナは、拳を握る。
震えている。
「……」
だが。
「……わかった」
小さく言う。
「……」
「やる」
その一言で。
関係が変わる。
「……」
女は、頷く。
「……」
「……ミレイユ」
「……」
「別の通りを」
「……承知しました」
迷いなく答える。
「……」
そして。
全員が、動き出す。
「……」
分散。
今までとは、違う。
「……」
カイルが、面白そうに笑う。
「……ようやく、そこか」
「……」
「……一人でやるな」
一拍。
「分けろ」
「……」
その通りだった。
「……」
女は、別の通りへ向かう。
今度は。
完全に、離れる。
「……」
エルナは、一人で残る。
「……」
「……」
深く息を吸う。
吐く。
「……」
「……全員、聞いて!」
声を張る。
少し震えている。
「……」
だが。
止まらない。
「……」
「ここ、今一番損してるよね!」
その一言。
「……」
視線が集まる。
「……」
「だから」
一拍。
「少しずつ譲ろう!」
「……」
沈黙。
「……」
「……なんでだ」
誰かが言う。
「……」
エルナは、迷う。
一瞬だけ。
だが。
「……」
「……止まるより、マシだから!」
叫ぶように言った。
「……」
その言葉。
シンプルだった。
だが。
「……」
伝わる。
「……」
「……ちっ……」
舌打ち。
だが。
一人が、引く。
「……」
流れが、動く。
「……」
エルナの目が、見開かれる。
「……できた」
小さく呟く。
「……」
その時。
「……」
別の場所で、怒号。
「……」
「……こっちが止まった!」
「……」
エルナが、振り返る。
「……」
また別の歪み。
「……」
同時に。
「……」
遠くで。
さらに別の混乱。
「……」
街全体が、揺れている。
「……」
女は、別の通りでそれを感じる。
「……」
目を閉じる。
「……」
「……広がりすぎています」
小さく呟く。
「……」
そして。
初めて。
ほんのわずかだけ。
息が、乱れる。
「……」
その瞬間。
「……」
誰も気づいていない。
だが。
確実に。
「……」
限界が、近づいていた。
できることは増えた。
でも、その分、抱えるものも増えていく。
ここからは「どこまでできるか」の話になります。
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