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51.自覚

 変われたのなら、きっと楽だったのだろう。目を細め、口の端を持ち上げて笑う御門の顔を、鏡花は睨み付けるように見た。


「黛くんこそ、そういうところ、変わってないね」


 異世界という非常事態だからか、すっかり嫌味が減って忘れかけていた。だが、御門は元々、鏡花の対抗心が強いことを把握したうえで勝負を持ちかけるタイプだった。


 高校時代、何度も試験の点を争い、得意科目で鏡花に完全勝利をおさめ、その上で失点した原因を丁寧に解説するような男だったのだ。


 いい性格をしている。本人は性格が良いだろう、と返すので口には出さないが。


「お陰で、俺もお前も常に成績優秀者だっただろう。感謝してほしい所だ」

「黛くんは、体育以外、ね」

「人間、得手不得手はあるだろう」


 言い返しながら、鏡花は、そこで一度言葉を切った。ああ、そういえば、御門以外は、鏡花と正面から競ってくれる相手はいなかった。


 一度勝った相手に負けるのは嫌だから。純粋に、対抗意識を燃やされても困惑するから。同じだけの努力を強いられるような気がするから。


「そもそも、俺が医療で、お前や蓬莱、八月一日に負けるわけがないだろう」


 馬鹿にするなよ、と御門が低く吐き捨てる。


「確かに蓬莱の料理は好きだし、八月一日に何かと頼むが、分野を考えての事だ」


 まあ、聖女や勇者の馬鹿スキルを見ると、得意分野も何もないがな、と御門は眉間の皺を深めた。鏡花の胸の炎が小さくなる。


「それは……、そうだね」


 どうしようもない、与えられたスキルの話をしているのに。御門の目は、鏡花と同じで、鋭く細められていて。


 勝てないけど、それはそれとして、気に入らない。勝てない理由を知りたい。そうすれば、勝てないとしても、自分が近い事をするときに役立つから。


「何も思わないよりは、良いよね」


 ずっと、向上心を持っていたところで、状況が変わらず、ただ疲弊するだけで忘れていたけど。比較する相手も、評価の基準もなく、対抗心が生まれることすらなくて、ただ消耗していたけれど。


 じり、と胸の奥が引きつる。だけど、鏡花の口角は上がっていた。


「……私たち、聖女も、勇者も出し抜いて、魔王を倒さなきゃいけないんだから」

「指示待ち人間を連れて行く余裕はないな」


 【無感動】が弱まった理由を、鏡花は、薄々察していたのだ。異世界に来た直後の、疲れ果て、全てが他人事だった時と違って、はっきり仲間を守りたいと思っていたから弱くなったのだろう。


 恐らく、大罪スキルは、感情と強く結びついているのだろう。だから疲れが取れて、人への関心を取り戻した鏡花の【無感動】は弱くなった。


 何も受け入れず、拒絶し、距離を置く必要がなくなったから。それらは、全て。


「黛くんのせいだからね」


 御門だけでなく、輝夜と、京のせいでもあるが。完全に自覚させたのは御門だ。


 この話をする前に比べて、【無感動】は更に弱くなっているだろう。聖女にも、御門にも、輝夜と京にも、嫉妬していることを自覚してしまったのだから。


「守れないかもしれないよ」


 沈黙が落ちる。威力が落ちているとはいえ、【無感動】は強力だ。それが使えないとなると、鏡花の強みなんて。


「だからどうした」


 目を丸くする鏡花に、御門は傲慢な笑みを返した。思わず動けなくなるほど、美しいと笑みを。


「元々、デメリットだらけのスキル一つ程度、惜しくはないだろう」


 本来、持ってなかった力が無くなったところで、何も変わることはない。言い切る御門に、鏡花は浅く息を吐く。


 本当に、そういうところが、変わっていない。


 鏡花の表情を見ることなく、御門は続ける。


「気になるなら、【嫉妬】を訓練しておけ。残念ながら、俺たちは決定力不足だからな」

「そうだね」


 防御を捨てても攻撃手段が増えたのはいい事だ、と言えばフォローになるのだろう。勇者たちなら、きっとそう言う。


 だけど、鏡花たちには、このくらいが丁度いい。鏡花は静かに、書類をまとめ直して抱えた。


 全部纏めると、それなりの量がある。一度置いて抱え直そうと机に近付くと、横から御門の手が束を六割、奪って行った。


「半分貸せ。門の様子を見に行くぞ」


 言いながら、さっさと歩き出す御門に、鏡花は小走りで横に並んだ。無言で足を早め、鏡花の半歩前に出る御門に、目を細めて問いかける。


「ご飯は?」


 つい先程、輝夜に朝食を頼んでいたのに、すっかり忘れていることを指摘する。御門は、ピタリと足を止め、それでも鏡花を振り返ることはなく、大袈裟に咳払いをした。


「…………食べてから行く」


 言いながら、方向転換をして歩き出す御門。書類はどうするの、と声は掛けずに、鏡花は目を細めて後ろ姿を見つめる。


「……ありがとう、黛くん」


 ぽつりと呟いた感謝は、聞こえていないだろう。その分、行動で示せばいい。


 ゆらりと揺れる翡翠の炎で、敵を倒せば、それで。


 よし、と拳を握り込み、鏡花は御門を追って歩き出す。ちらり、と流し見た門は、恐ろしいほど静まり返っていた。

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