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52.光

 朝食を摂るべく合流すると、輝夜の両手にはバスケットがそれぞれ下げられていた。


「ご飯できてるよ。持って行こ」


 ほら、と差し出されたバスケット一つを受け取った鏡花は、中を覗いて顔を緩めた。


「サンドイッチだ」


 バスケットの中には、ずらりとサンドイッチが並んでいた。レタス、ベーコン、トマトといったお馴染みの彩りが視覚から食欲を刺激する。


「鏡花ちゃん用に卵もあるよ」

「ありがとう」


 バスケットから視線を上げると、既に京は城壁の階段に足を掛けていた。その足取りに、御門が怪我人を増やす気か、と苦言を漏らす。


「もう勇者一行が出てるから、急がないと」

「予定より早くないか?」

「結界がギリギリだったらしいよ」


 勇者たちは卓越した戦闘能力を持っているが、夜目が効くわけではない。安全を確保するため、日が昇り切ってから作戦を開始すると聞いていたが、予定が前倒しになったようだ。


 既に勇者たちは門の外に出ており、結界を一時解除すれば即座に戦闘が始まる状況なのだという。


 折角、勇者たちの戦いを見られる機会だ。逃すわけにはいかないと、鏡花も会談に足を掛ける。


「今は静かだけど……」

「結界は音も遮断するんだって」

「鳴き声に特殊な力がある魔物もいるらしいからね」


 魅了、洗脳、混乱、即死。音を聞いたりしたものに状態異常を与える力を持つ魔物は多い。そのため、結界はそういったものも遮断するようできているようだ。


 結界が半透明な壁に見えるのは、見ることによる効果も防ぐためなのかな。徐々にスピードを落としながら、鏡花は壁の上に見えてきた結界を見る。


 そうして、目に移った光景に鏡花は絶句した。


 足を止めた鏡花の後ろから、視線の先を辿ったのであろう輝夜が感嘆の声を漏らす。


「結界って凄いね」

「これだけの魔物が、攻撃していたとはな……」


 空の半分を覆うのではないかと思うほどの、翼をもつ魔物の大軍。下から見た時、雲だと思っていたものは、全て魔物の影だったのだ。


 何度も何度も結界に向けて体当たりをしては落ち、落ちた仲間を見て学習することなく、次の魔物がぶつかってくる。


 簡単にはじけているように見えて、衝突の度に半透明の壁には僅かな波紋が生じ、徐々に結界が削れている、と直感的に理解ができた。


「上がこれなら、下は……」


 結界に沿って、魔物がひしめき合っていた。目的地である亀裂まで、魔物の体がない場所がないと思えるほどだ。


「本当に、戦況は均衡していたようだな」

「あの亀裂、ずっと魔物を生むのかな」


「魔力が無くならない限り、恐らく」

 結界を張っている間は、攻撃されない代わりに攻撃することもできない。その間に、もはや覆せない程の兵数差が生まれていた。


「これでは、結界を解いた瞬間に城壁は危険だが……」


 呑気にサンドイッチを食べているような暇はないだろう、と御門が言いかけた、その時。視界の下、城門の向こう側から、眩い光が周囲を照らし始める。


 日が昇って来たのではない。これは、勇者の。


「【正義】!!」


 半透明の壁が消えると同時に、光の刃が、魔物の群れを薙ぎ払っていく。地上にできた一本道を、四つの影が走り出す。


 一つの影から、金色の光が放たれ、四人を包む。また一つからは緑色を帯びた風が巻き上がり、上空の魔物を撃ち落としていく。最後の影は半透明の壁を出し、左右を囲い、亀裂までの一本道を作り出す。


 これなら、側面や後方からの攻撃を気にせず、前の敵だけ倒せばいい。一番後ろにいた聖騎士らしき影が前へ飛び出し、勇者のスキル再使用までに道を切り開く作戦だろう。


「これなら勝ちの目はあるけど……」


 結界は、未だ解除されたままだ。勇者の一撃もあり、城門付近の魔物は減っているものの、上空の魔物は。


「勇者たちに向かってる!!」


 街を狙うかと思いきや、勇者達めがけて一直線に降下している。誰かが指示を出しているのか、亀裂が破壊されると不味いと本能的に感じているのか。その動きは統率が取れていて、一切の迷いが無いように見えた。


 しかし、一度賢者に蹴散らされた程度の魔物たちだ。勇者のスキルとは違い、賢者のスキルは時間制限がないようで。的確なタイミングで発動される魔法に為す術もなく、足を止めることもできずに倒されていく。


「……蓬莱、カゴ寄こせ」

「うん」

「八月一日も食べよう」

「そうだね」


 既に、亀裂までの距離は僅か。勇者の剣には既に、淡い光が集まり始めている。目まぐるしい状況に体感時間が短く感じたが、実際はそれなりの時間が経過していたのだろう。


 ここまでくれば、状況がひっくり返ることは無い。魔物からすれば、状況がひっくり返ったことになるだろうが、勇者達の作戦が失敗することは無いだろう。


 細く狭められた道にいる魔物の数では勇者の足を止めることすらできず、聖騎士一人で魔物を斬り亀裂へと迫る。


「おいしい」

「完璧な甘さでしょ」

「うん」


 安心して食事を摂り始めたところで、勇者の【正義】の光が炸裂した。紫黒色の霧が散り、亀裂の幅ほどの巨大な球体が空間上に浮かびあがる。


 あれが、亀裂の核なのだろう。そして、核が露出したのなら、この戦いは終わりだ。


 勇者のものとは違う、銀に近い光が核を包み、弾ける。それと同時に、周囲の魔物達は一斉に消え、国境での戦いは終わった。


 その光景を、四人はじっと、見ていた。

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