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49.聖女

 足早に救護所に入った御門は、聖女を探すことなく声を張り上げた。


「聖女は何処だ?」

「ここです」


 すぐに返事が返ってきたので、御門を先頭に聖女のもとへと向かう。その間、他の回復師は動かない。御門の言う通り、聖女一人で手が足りているのだろう。


 御門が聖女の前に立つと、聖女は治療をする手を止めないまま、御門に視線だけを向けた。


「どうしました?」


 尋ねた聖女に、御門は手短に告げる。


「負傷者は俺たちが受け持つ。聖女として、門付近に出現した亀裂の対処に当たってほしい」


 明日の夜明けに動けるよう、休息を取ってくれ。一息に言いきった御門に、聖女は目を丸くしながら立ち上がった。ガタン、と聖女が腰かけていた椅子が倒れる。


「こんなに、怪我人がいるんですよ!? 私が離れたら、どうなるか……!!」

「治療は聖女以外にもできる」


 声を荒げる聖女に対して、御門は動じることなく返した。言いたいことはそれだけか、と御門が視線を返すと、聖女は服の裾を握りながら、言い返す。


「私が治療するのが一番早いですし、確実です」

「手伝いは呼んだ。他の回復師もいる」


 持て余しているくらいなんだから、聖女が抜けた程度で問題はない。御門が言い切ると、聖女が救護所を見渡した。


 聖女と目が合った回復師たちが、無言で目を逸らす。その意味は、来たばかりの鏡花達にはわからなかったが、聖女には思う所があったらしい。


「私が抜けたせいで助からない人がいたら、どうするんですか!! 回復師じゃ治せない怪我の人だっているかもしれないのに!!」


 そんなことがあったら、と顔を覆い悲痛な声を上げる聖女。だが、鏡花が引っ掛かったのは、いるかもしれない、という言葉だった。


 もしかして、と鏡花が輝夜や京に確認するより前に、御門が足を踏み鳴らした。ダン、と大袈裟な音が鳴り、聖女がピタリと動きを止める。


「そいつは元々助からなかっただけだ」


 にこり、と御門は目を細めて微笑んだ。その顔は、柔らかく、駄々をこねる子供を優しく諭す様な表情を浮かべていて。


 つまるところ、物凄く機嫌が悪いということだ。


「思い上がるな」


 優先順位もわかっていない子供が、と御門が吐き捨てる。


「確かにお前の治癒力は高い。普通なら治らない傷が治るんだからな。だが、治療を続けてなんになる?」

「どういう意味ですか」


 治療が無駄なはずがない。聖女は、そう思っているのだろう。正しい。負傷者を減らすことは、戦える人数を増やすことに繋がる。負傷兵は治療に人手を取られるし、食料は同じだけ消費する。


 だが、それは一般的な戦いでのことだ。


「今は、聖女が行かない限り同様の負傷者が出続けることは明らかな状況だ。何度も治療して、何度も怪我をしに行けと言うのか?」


 あの亀裂を消さない限り、魔獣は無尽蔵に出てくる可能性が高い。聖女が救護所の負傷者全員を治療したところで、同じように戦えば前と同じか、それ以上の負傷者が出るだろう。


 今は聖女の治療に感謝している騎士たちも、何度も負傷を繰り返せば、どうなるだろうか。治ると理解していても、痛いのは嫌だろう。徐々に士気が落ちることは間違いない。


「それともなんだ? お前は治療することが好きなのか?」

「そんなことは!!」


 強く否定した聖女に、御門は救護所の入り口を指して言う。


「なら、さっさと合流しに行け」


 あまりに上からの物言いだが、主張は正しいと判断したのだろう。聖女は少しだけ、御門をじっと見たが、一拍ののち、静かに頭を下げた。


「わかり、ました。ここは、お願いします」


 聖女らしく、正しく【博愛】の精神の持ち主なのだろう。どう見ても嫌な奴である御門にも頭を下げ、負傷者の事を気にしながら足早に救護所を出ていく。


 すごいな、と鏡花が純粋に思っていると、御門が一つ咳払いをした。


「聞いていたな?」


 鏡花達に向けた言葉ではない。御門と聖女のやり取りを聞いていた、他の回復師たちに向けたものだ。


「今から総出で治療に当たる。眞金、回復師の治療履歴を持って来い」

「うん」


 治療履歴は、どの回復師が誰のどんな傷を治療したかを記している書類だ。履歴を確認することで、回復師の実力が把握できる。


 回復師ごとに、担当した最も難しい治療の情報さえあればいいだろう。書類を確認しながら、分けた書類を御門に渡すと小さな頷きだけが返される。


「蓬莱、八月一日は負傷者を割り振った場所へ移動させろ」

「おっけ〜」

「了解」


 回復師の実力が把握出来たら、後は負傷者の分類である。御門が怪我の程度に応じて三段階に分類し、輝夜と京が簡易ベッドを移動させ、待機している回復師が片っ端から治療に当たる。


「……そもそも、異世界一人に命の責任を負わせる方が間違っている」


 この世界の人間として、最大限の努力をしてもらおうじゃないか。御門は小さく呟き、回復師たちにキリキリ動けと言い放った。

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