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48.亀裂

 京が【強欲】スキルによって魔物から奪った魔力を全て使って発動させた、氷の壁は、門が閉まると同時に甲高い音を立て崩れ去った。


「今だ、結界を!!」


 しかし、足止めとしては十分すぎる効果を発揮し、聖騎士は無事に撤退。上空の敵を倒し終えた賢者を始めとした魔法使いたちが、街を守るための結界を張る時間を稼ぐこともできた。


「重傷者はいるか!? 聖女様が来てくれたぞ!!」


 危険な役目を聖騎士が引き受けたことにより、死者も少なく、怪我人は多いが門を前に取り残された者もいない。


 全滅しても不思議はない状況を考えれば、かなり、マシな結果だろう。地面に手を付き、必死に息を整えながら、鏡花は、どこか他人事のように、そう思う。


 だが、勇者たちにとっては、初めての敗北だったようで。拠点の騎士たちも、どこか纏う空気が重く。このまま何処までも転がり落ちて行ってしまいそうな、そんな予感を醸し出していた。


「勇者様たちに、お伝えすることが……」


 体を重そうに引き摺りながら、責任者であろう騎士が、暗い顔で勇者達に近付いてきた。


「今は、結界で持ち堪えてはいますが、そう長くはもちません」


 今晩は持ち堪えても明日の昼には結界が破られるだろう、と騎士は伝える。


 あの結界は魔法使いたちが残りの魔力全てを注ぎ込んで張ったものだ。同じ強度の結界を張るだけの魔力が回復するまでの時間はない。


「……あの亀裂を、何とかするしかないのか」


 守るだけでは消耗していくだけだ。魔物たちは亀裂から無尽蔵に生み出される可能性が高い。


 門の方を見る勇者に、賢者が反対の声を上げる。


「勇者に何かあれば、魔王を倒すことができなくなります。亀裂の詳細がわからない以上、迂闊に前線に立つことは避けるべきです」


 一度負け、士気が落ちている状態だ。勇者が太刀打ちできなければ、士気はどん底まで落ちるだろう。


「だが、此処を守り切らなければ、魔王を倒すための拠点を失うことになる」


 二人の意見はどちらも間違っていない。せめて対策を立ててから、と食い下がる賢者。しかし、勇者はキッパリと否定した。


「夜明けを待って、反撃に出る」

「ですから、それは……」


 賢者の言葉を遮るように、勇者が手で制す。責めるような視線を向ける賢者に、勇者は眉を八の字にして苦笑した。


「考えがないわけじゃない。あの亀裂は、魔物を生み出しているんだろう。なら、魔王と同じ、魔力の塊なんじゃないかと思って」


 その言葉に、賢者は顎に手を当てて思案しているようだ。賢者とほぼ同時に、鏡花も答えに辿り着く。


 あれが魔力の塊なら、スキルによる攻撃しか届かない。そして、効果のあるスキルは。


「【正義】と【信仰】で対処できるはず、ですね」

「ああ。ただ、美優__聖女の力が必要になる」


 勇者の【正義】で魔力を切り裂き、聖女の【信仰】で浄化することが必要らしい。


 それが、魔王を倒す手順。鏡花が輝夜と京の様子を確認すると、二人から小さく頷きが返ってきた。なんとも頼もしい。


「今は治療中でしょう」

「これ以上、被害を出さないためだ。出てもらうしかない」

「治療を後回しにすれば、戦力が揃いません」


 一方、勇者と賢者は中々話が進まないようだ。


「……纏まらないね」

「今迄、合議制で問題なかったみたいだね」

「勇者くんが絶対的なリーダーってわけじゃないみたいだし、止めた方がいいかな?」


 これ以上は時間の無駄だから、と京が二人に声を掛けようとしたところ。救護所の方角から威圧的な声が割って入った。


「……問題なのは、治療の手だけか?」


 御門である。突然の質問に驚きつつも、すぐに勇者も賢者も頷いた。


「は、はい」

「そうです」

「なら問題ない」

「確かに、御門くん暇そうだけど」


 輝夜の発言に顔を顰めながらも、御門は眠気など微塵も感じさせない、覇気のある声で続ける。


「聖女様が随分張り切っているからな。俺含め、他は出番がない」

「そう、なんですか?」


 見たらわかる、と御門は救護所を指し示す。確かに、回復師の人数は朝と同じだ。あれだけの負傷者がいたというのに、増員の必要がない、ということだろう。


「聖女の治癒力は圧倒的だ。吹っ飛んだ腕すら生えてくる。助かっている者も多い。だが、被害を減らすことが先決だ。根本解決を先延ばしにする馬鹿が何処にいる?」


 聖女が四六時中治療したところで、亀裂を破壊しない限り、また負傷者が出るだけだ。


「キレッキレだね」

「まぁ、だろうね」


 御門は、良い意味でも、プライドが高い。聖女頼みの状況に、色々と思うところがあるのだろう。


 まあ、でも。御門が聖女抜きでも大丈夫と言っているなら、大丈夫なのだろう。鏡花は静かに、御門の結論を待つ。


「治療は俺たちが引き受ける。お前たちは亀裂をなんとかしろ」


 それだけ言って、御門は鏡花達に視線を送ってから踵を返す。着いてこい、ということだろう。


「聖女様には、僕たちから伝えておくので」

「勇者くんたちは、先に休んで」

「失礼します」


 勇者と賢者にそう伝え、鏡花たちは足早に御門の後を追う。聖女が抜ける穴をどう塞ぐのか、御門に聞くためだ。


「黛くん」


 追いついた鏡花が、短く名を呼ぶと。御門はくるりと振り返った。


「総出で治療に当たる。俺の指示には絶対に従え」


 泣き言を言うなよ、と告げる表情は、いつもに増して険しかった。

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